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『Lume de soarta』

107話『運命に奪われ続ける』セリ編

 ←106話『その綺麗な笑顔を』レイ編 →2018年『1話 しあわせなクリスマス』セリカ編
香月に…会いたい…嫌いになれない、やっぱり大好きだもん…愛してるから……
でも…あー…なんか、そう…そっか…俺の運命はいつでもそうなんだな
目を覚まして、酷く気が滅入る
前世の夢が見れるお香だって?
全然夢なんかじゃねぇ……本当に、夢なんて曖昧なものじゃない
この怪しいお香は、前世の記憶を復活させるものだった
昔のコトのように鮮明に…その時感じたコトも、何もかもを焼き付いて思い出せる
いつも…香月と、やっと幸せになれる時に死ぬんだ……
…嫌だな……長生きした記憶が一切ない
前の世界でもそうだし、この世界でもそろそろ死ぬんじゃないかって思えてきて…怖くなる
絶対…死にたくない
今の人生はこれまでと違うんだ
幸せなコトがたくさんあった、大親友のレイがいて、自分であるセリカがいて、大好きな恋人の香月と和彦がいる
たくさんの仲間に出逢って…そんな今を失いたくない
でも、そっか…そうなんだ…
俺の運命は何度生まれ変わっても同じなんだ
勇者の世界の人生と、今の俺は小さい頃から大人になるまでは多少の違いはあれど根本は似たようなコト…
前の世界では、大人になって和彦に会うまでは……
いや和彦に会ってから暫くしても俺はアイツが大嫌いだった
自分勝手だし乱暴だしなんか怖いし俺の気持ちなんて無視だし
でも…今の人生は和彦に出逢ってから変わったような気がする
香月の代わりに和彦が俺を救ってくれたんだ
少しずつ変わった数あった前世の運命の中の香月と同じような…感じで
和彦と一緒にいるのが長くなると…俺は気付いたら好きになっていた
どこを好きになったんだ?と聞かれても、わかんねぇけど
この世界に来てからはちゃんとわかる
和彦は俺を愛してくれて大切にしてくれる
和彦が俺を救ってくれたんだって今なら思うよ…
殺された過去もあったけど、そんなコトどうでもよくなる
あぁ…今すぐ和彦と香月に会いたい…逢いたくなった
香月には会えないけど…和彦に…会いに
ベットから出ようとすると、レイが起きたコトに気付く
レイ…1番近い前世で、少しだけ会ったコトがある…
今のレイとは少しも違って…あれがレイの前世だったなんて、信じたくはないが
でも……
「レイ…」
俺は逃げない
二度殺されたコトは聞いていた話だったから覚悟はあったのに
ただの夢ではなく本物の記憶としてある俺はそのコトを気にしないと言えないかもしれない…
それでも俺はレイと大親友でいたいからそのコトは…もういい
深く考えたらダメになる、関係ないって言ったんだ
絶対にその言葉は守りたいから
それとは別に俺が前世のレイに会った時は嫌な奴だったから、あの時はコイツ嫌いとか思った
だけど、たった1時間の嫌な記憶がなんだ
レイは今の人生でいつも助けてくれて守ってくれてるじゃんか
ずっと…この世界ではじめて会った人で、その時からずっと一緒にいてくれた大親友なんだぞ
レイは俺を裏切ったりしない!俺はレイを嫌ったりしないから!!
レイが起きてすぐ俺へと頭を下げて謝る
前世の時にレイに言われたコトもされたコトも傷付いて嫌いだって気持ちは今でも思い出せる
でも…今までずっと仲良くして大好きだった長い時間の前ではそんなものは霞んでいくから
俺はこれからも大切な大親友としてレイを受け入れた


朝になって、俺は和彦の所へ寄るとレイに伝えて途中で先に帰ってもらう
香月にも会いたいけど…今は…気持ちを抑えるべきだ
香月は俺と違って前世の記憶は全て維持できる
何度も…記憶のない俺と1から出逢うのって…大変だっただろうな
それでも…香月は……ずっと魔王と勇者として戦っていたのに…よく、途中から好きになってくれたんだな…
香月が好きになってくれなかったら、俺は…なんの為に生まれて来たのかわからなくなる
魔王を倒したからって俺の人生は変わらない
それを香月は変えてくれたんだ
長い間、香月と一緒にいられるコトなんてなかったけど…でも、少しの間だけでも嬉しいよ
香月に…愛してもらえて…幸せだったよ
好きになってくれて、何度も何度も出逢う所からはじめてくれて、ありがとう
今も…俺はちゃんと好きだよ、香月のコト…愛してるからね
「なんて顔してるんですか…引くんですけど」
和彦の屋敷を訪ねると出迎えたのはフェイだった
うわっ…最悪、コイツの顔を見るのも最悪なのに
香月のコトを想ってにやけた顔を見られたのも最悪だよ
「怖い夢でも見たんですか?」
間違っちゃいないけど、この嫌そうな顔はオマエが視界にいるからだよ
「怖い夢を見たくらいでいちいち和彦様に甘えて慰めてもらおうとか子供ですか、あなたは」
う、うぜぇ…まだ何も言ってねぇのに次から次へと色々言えるな
「悪いかよ!フェイに和彦と俺の関係に口出しされる筋合いはねぇだろ!!黙って中に入れろ!」
「黙って中に入れてください?そうですか、私に抱かれに来たんですね
いいですよ、玄関では人目もありますから私の部屋に」
「てめぇ、ホント許さねぇぞ…
そういう意味じゃねぇのわかんだろ、朝からセクハラすんな、誰がオマエに抱かれるかよ」
フェイに腕を掴まれ屋敷の中へと引っ張り込まれる
すぐに振りほどいて距離を取るが、コイツは冗談抜きでやりかねねぇ
いや、俺の言い方が悪かった
黙ってそこをどけ!の方がよかった
フェイになんも考えずに言ったら妙に揚げ足取られるだけだ
「セリさんの怖い夢くらい私が聞いて慰めて差し上げますよ?」
「しつけーな」
「残念です、セリさんの為ならいつでも力になると言うのに」
「オマエに貸し作ったら後で怖いから絶対作らないって」
「何も金を巻き上げようなんてしませんよ貧乏人に、ないでしょう?お金」
腹立つな~ホンマ、年下なのによくそんな達者に言えるな年上の俺に
「その時は体で返してくれればいいので」
無視しよう、相手するだけ時間の無駄だ
朝からイラついて損するわ
しつこく俺にまとわりつくフェイを振り切って俺は和彦の部屋を訪ねた
「和彦…ふふ、朝から来ちゃった」
ドアをノックすると和彦の返事があったから部屋へと入る
「その様子だと何かあったのか?」
ちゃんと笑顔を作ったつもりだったのに和彦にはすぐ見破られる
俺がわかりやすい態度なのもあるがやっぱり付き合いの長さもあるんだろうな
ソファに座る和彦は膝の上に座れと俺を呼ぶ
素直に俺は和彦の膝の上に向き合って座るけど、これいつも慣れずに照れる
付き合いが長くても、恥ずかしいもんは恥ずかしい
ううん…付き合いは長いかもしれないけど、俺が和彦を好きになってからの日はそんなに長くないんだ
「ん?何これ?」
和彦は俺の左手を掴むと占い師から買ったブレスレットを見て
「セリくんには似合わないな」
ぶち千切った
「うわー!?何するんだよ!?酷すぎるぞ!!(俺の3万円が…)」
お金ない時に無理して買ったのに…和彦と香月とラブラブになれる凄いブレスレットなのに……
「このブレスレットは恋人と仲良くなれるって……」
ショック…泣きそうになる俺に和彦はキスをして涙を止めてくる
「そんなブレスレットなくても仲良いだろ?」
でも…キスは嬉しいけど…
「セリくんのほしいものなんでも買ってやるから」
「ホントか!?」
すぐ機嫌を良くした、このブレスレットなくても良いコトある!和彦は俺のコト愛してる!
「オレが嘘付いた事あるか?」
「ないです!」
和彦大好き!気持ちのままに抱き付く
これじゃ俺は金(ほしいものはなんでも買ってくれる)で心動かした奴みたいだな
「そう…和彦は嘘付かないんだよ…
女との浮気を問い質してもしっかり答えてくれるもんな…」
急に冷静になって和彦から離れた
「避妊はばっちりだから心配するな」
「そういう心配もあるが、根本はそういう問題じゃねぇよバカたれ」
和彦の女遊びはいつになったら落ち着いてくれるのか
「愛してるのは本命のセリくんだけ、機嫌直してくれよ」
和彦は嘘つかない…だからいつもこうやって丸め込まれてる気がする
まぁ暫くは浮気は控えるって言ってくれてるし許すか
「そういえば、セリくんはオレに会いに来たんだろ?どうした?」
そうだ、前世のコトを思い出して過去のコトを思い出したから和彦に会いたくなったから来たんだった
「いや…別に何って用じゃないんだけど…
なんか急に、和彦と出逢て恋人になれてよかったなーって思って」
「セリくんにとってオレ以上の人っている?」
「いないよ」
占いでも今の人が最上って言われたし、俺もそう思ってる
「じゃあオレと香月とどっちが上?」
「浮気しない香月」
あっ和彦が笑顔だけどちょっと怖い空気が流れる
「ウソウソ、どっちも同じくらい愛してるって」
「よろしい、同じくらいの人にセリくんを寝取ってほしいからな」
そのフェチ全然理解できないけど…俺はヤダもん
和彦は俺が誰を好きでも気にしない
寝取られフェチだからむしろ大歓迎とまで言う
でも自分より好きなのは許せないらしい
香月も俺が誰を好きでも気にしないけど、寝取られフェチとかではないんだよな
「オレもセリくんが恋人で幸せだよ」
和彦から幸せだって面と向かって言われたのははじめてかもしれない
めちゃくちゃ…ドキドキする、照れるし…
「最初は綺麗なセリくんがほしかっただけだった
いつの間にか、愛してたんだよな…殺した事もあるけど」
ドキドキからズキズキに変わる
和彦に殺されたコトはきっと一生忘れられない
怖くてショックで悲しくて寂しくて…とても痛くて苦しかった
でも、いいんだ
こうしてまた再会できて、ちゃんと愛してくれてる今があるから
和彦に手招きをされて俺は取っていた距離を近付ける
「甘い言葉は囁けないが、セリくんの事は本気だから
オレに出逢えてよかったって言ってもらえて嬉しいよ」
耳元で囁かれて全身の熱が上がって冷め切らないうちにまたキスをもらう
そ、そんなの…ダメだ…胸がきゅーってなる
十分に甘いから、死んでしまいそうだよ
嬉しいとかいつも言ってくれないから
あーダメだダメだ、今までの浮気全部許してしまいそうになる
「これからもよろしく、オレの恋人」
頭撫で撫でもしてもらって倒れそうになる
いつもしてもらってるコトなのに今日は特別に感じる
言葉が詰まって出なくなった俺は頷いて、こちらこそよろしくお願いしますと応えた
本当に…和彦に出逢えて恋人になれてよかった
和彦がいなかったら俺の今の人生は変わらなかったから
「でもなんか…和彦が優しいと逆に怖いって言うかキモイって言うか、ほら昔はもっと勝手だったじゃん?」
昔と比べると本当に随時丸くなったんだ、牙抜けたな
「何年一緒だと思ってる?いつまでもオレにガキでいてほしかった?年取れば自然と落ち着くもんなんだよ、人間は
セリくんだって少し変わったと思うけど?」
「年って…まだ23だろ、ジジ臭いコト言って
それもそっか、俺は今の和彦の方が…好き…だけど」
最後の方は小声になってしまった
和彦のコトはめっちゃ嫌いな時期もあったけど、そのガキの頃の和彦も好きになったコトもあった…気楽だったし
でも、今はもっと好き
昔はむちゃくちゃな奴だけど、なんやかんや優しかったし守ってくれてたし愛されてたし大切にしてくれた(当時はわかりにくかったが)
今の和彦は素直になったんだよな
昔がツンデレだったってワケじゃないが、なんとなく今は素直と思いやりを感じる
それだ、思いやりだ
昔の和彦にはそれがなかった、今もだけど昔は俺の気持ち無視のめちゃくちゃなオレ様タイプだったんだよな
「…香月の事、どうにかしたい時はいつでも力になるから」
頭ポンポンされて、和彦はいつだって俺の味方でいてくれる
それが心強かった
「勝手に動くなよ、セリくんを死なせるわけにはいかない」
「うん…ありがとう」
その時は和彦に頼るかどうかはわからないけど、そう言ってもらえただけでたまらなく嬉しかったんだ
「この後、何処か連れて行ってやろうか?」
「デートの誘いは嬉しいんだが、今日は昼過ぎからレイと仕事なんだよ」
本当に今お金なくてピンチなんだよ
ユリセリがセレンとツインメイドの片割れを匿ってくれてるだけでありがたくて、お金まで負担させたくない
セレンにもツインメイド片割れにもお世話になったし金くらいは俺が稼がないとダメだろ、男として
「セリくんが金に困ってるならいくらでも出すのに、遠慮せずに言え」
「それはダメだ!俺だけならともかく、必要としてるお金は俺の分だけじゃないから和彦に出してもらうワケにはいかないよ」
「誠実だな、気にする事ないのに」
「俺が気にするの!じゃあもう行くから、短い時間でも会えてよかった」
バイバイと背を向けて和彦に手を振る
部屋を出ようとすると後ろから和彦に抱きしめられて引き止められた
「最近セリくんが忙しいからデートも出来ないんだ」
後ろから抱きしめられるといつもよりドキドキする…
俺だってデートしたいけど…やっぱり色々忙しくて時間がなくて…
和彦と一緒にゆっくりしたいとは思うけど
「…夜は会える?」
そう囁かれて耳を噛まれるとまた一気に俺の身体の熱が上がる
とくに噛まれた耳が1番熱くなって…死にそう
「む…無理…暫くは時間が…っなくて」
和彦に浮気禁止させといて、自分が時間ないから会えないなんてそれは俺が酷いと思う
我慢させてるのもわかるし、俺も我慢してる
なんとか気持ちを抑えて和彦の顔を手で押し退ける
「そのうち時間作るから…待ってて」
セリカのスピリチュアルフェスティバルに付き合って(自分には甘い)本当に時間と言うかお金がないんだ
俺も占い楽しかったから息抜きでよかったけど(その夜の前世の記憶事件は最悪だったが)和彦には悪いなって思う
「…わかった、セリくんの実力程度じゃまともにやってもそんなに稼げないから余裕が出来るのはいつになる事かな
手っ取り早く稼げるからって体売るなよ、それは寝取られたと言えない」
「俺の意思で売るかボケ!!もう帰る!!」
自分の意思でこの体を売ったコトはない
売られたコトはあっても…
俺は好きな人とだけが良いから…
でも、どうかな…嫌なのに暴力に屈伏して言いなりになるのは、俺の意思じゃないと言えるか?
それは抵抗をやめて負けた自分が決めたコトでもあるんじゃないかって…自分を責めてしまう
「あっ…」
帰ろうとすると和彦が最後にキスをと顔を近付けるから和彦の口元を手で抑えて
「やめてください…やめろ」
拒否する
嫌なワケはない、でも今キスされたら帰りたくなくなって俺は自分に甘いクズになり下がりそうだったから
「セリくん…わかった、今度会った時は容赦しない」
うっ…引き下がってくれたけど、後で怖いやつがどんどん溜まってるような気がする!?
「じゃ、じゃあ…バイバイ」
「楽しみだね、セリくん」
逃げるように和彦の部屋から出たけど、最後に見た笑顔は物凄く怖かった…
でも前世の記憶を思い出して滅入ってたけど、和彦に会ってちょっと元気になったな
和彦がいると嫌なコトなんて忘れちゃうよ
さてと、気持ちを切り替えて頑張って仕事してお金稼がないとな!!

和彦の屋敷を出て帰り道を少し歩くと途中でレイと会う
「あれレイ、帰ってなかったのか?」
「一度帰るよりここで合流した方が早いからな」
ふーん、ずっとここで待ってたのか
見渡す限り何もないから時間潰すのも暇だったんじゃないかな
「もしかして覗いてた?」
「……まさか?」
……この間なに!?
冗談で言ったつもりだったのに、その間のせいで笑えなくなってんぞ!?
実はレイって覗き趣味があるんじゃ……
レイはめちゃくちゃ目が良くてありえない遠くまで見えるし
俺の周りにはド変態しかいないんか!?
「覗きはやめろよ…俺はやだよ…」
ドン引きすると言うよりは、レイにいつもの俺じゃない自分を見られるのは嫌だ…大親友に見られるのは死にたくなるレベルの恥ずかしさだもん
「してないさ、覗きなんて…」
ほ、ホントかな…いつものレイの爽やかな笑顔じゃない気がするんだよ
でも…大親友を信じよう俺は……うん、疑ったら終わりだ
「信じてる…
ところで、これから行く仕事ってなんだ?報酬はいくら?」
今回の仕事はレイが受けて来たものだから詳しくはまだ聞いていない
レイのコトだから危険の少ない簡単な仕事だとは思うんだ
俺と一緒だから危険なやつは選ばない
「報酬は100万で」
「待て!?めっちゃ怪しいか死んでもおかしくない内容じゃねぇの!?」
金がないから稼ぎたいのは山々だが、高額なのは何かあるから誰も手を出さないって当たり前のコトだぞ?
レイはもっと賢かった!!
「まぁセリ落ち着いて、内容はモンスター退治だ」
「凄い強いんだろ?」
「報酬からしてそうだろうな、しかしオレとセリなら無敵じゃないか
この程度、余裕だろう?」
確かに…レイは超強いよ、それに俺の回復魔法で無敵と言ってもいいくらい敵なしなのもわかる
でもさ…
「俺達が手に負えないくらいの敵なんていくらでもいただろ?どうしてそんな無茶するんだよ」
「セリに合わせていたら5人が暮らせる金は稼げないだろう?」
うっ…それは…そうですね…
レイと俺とセレンとツインメイド片割れと光の聖霊…
俺のレベルに合わせると1人分稼ぐのが精一杯、しかも生活はカツカツ…
この世界に1人で放り込まれていたら、ガチで野垂れ死んでたかもしれない
それか……考えたくないコト
みんなに会えたから俺は生きてられるんだって思う
だからちゃんと感謝して恩返ししなきゃいけない
セレンが腐って暴走するからついつい感謝の気持ちが薄れがちだが…
「はい…頑張ります…精一杯
それでも一度に100万は難易度が高いような…」
「これくらい稼いでおかないと時間が出来ないと思って」
「えっ?」
「セリが和彦さんに会う時間がないから」
レイはハハハっていつものように笑ってくれる
俺の為に…レイって…やっぱイケメン
「ありがとうレイ!俺頑張るよ!!」
「そうと決まったら行こうか」
俺が笑うとレイもさらに笑みを深める
覗き趣味を疑って悪かった!
レイは本物のイケメンで、俺の大好きな大親友だ!!
「うん!時間が出来たらレイもセリカと旅行したらいいよ、約束してるだろ?」
「セリがそう言ってくれるならこの機会に誘うよ」
レイはセリカと離れていてタイミングが掴めないけど、俺を見て誘う時を考えてくれる
優しいんだよな…良い奴、レイならセリカを任せられるよ
「それで何処に行けばいいんだ?」
レイが手に持っていた地図を覗き込むと、手書きの地図で一本二本道が描いてあってここ
「ちょっと待って!待って!全然わかんないんだけど、ここって!?どこだよ!?」
たまに簡単な地図でこんなんあるけど、わかるかよ!!大雑把すぎだろ!?
「ハハハ、セリは地図を読むのが苦手かい?わかりやすく書いてくれてるじゃないか」
そう言ってレイはこっちと連れて行ってくれる
レイには俺が見えない何かが見えるの?
暫くして本当に地図が示す場所に辿り着くコトができた
凄いね

地図に示された場所は大きな町だった
近付くと音楽が聴こえてくるような気がして…町の前まで来るとガンガンとうるさい音が町を包み込んでいた
「うわっうるせぇ!なんだこれ!?俺の声がかき消されるくらいうるせぇな!!おい!!」
人を不快にするレベルの大音量だぞ!?
事前にレイからどんなモンスターかは話を聞いていた
1週間くらい前からこの町の中にモンスターが数匹入り込み、ずっと音楽をこの大音量で流し続けていると言う
楽器を奏でて音楽を流し続けるだけでそれ以外は何もしないようだが、朝も昼も夜も休むコトなく続けているらしく
住民達はストレスと寝不足でめちゃくちゃ迷惑していると言うワケだ
さらに、そのモンスター達は無敵に近いのかダメージを与えられないと聞く
話を聞いて、ダメージを与えられないならいくらレイでも勝てるのか?と思うぞ
レイは一度に沢山稼ぎたいってのもあったけど、音楽は幸せにする為のもので誰かを不幸にする迷惑をかけている事が許せないとしてこの仕事を受けたと言う
レイらしいな…レイは音楽の天才だから、それに俺もそう思うよ
音楽は人を幸せにするもの、俺はレイの音楽が大好きでいつも幸せにしてくれるから
人に迷惑かける不幸な音楽はやめさせなきゃいけねぇな
町に入ると住民達は家に籠もっているのか何処かに避難しているのかわからないくらい外には誰もいない
こんな大音量の音楽をずっと聴かされてたら頭と耳がおかしくなりそうだ、そりゃ外をうろついたりはしねぇか
さらに町の中心へ行くとモンスター達の姿を確認できた
正直…
「か、かわいい……」
モンスター達は可愛すぎるキャラクターのような姿をしていて、しかも俺が可愛いと思うような顔と形の奴ら
ぎゅーってもふもふしたい
まぁそんな可愛い奴らが楽器を扱いオーケストラをやっていた
可愛いけど、人の迷惑になるコトをするなら退治しなきゃダメだな…ここは人間の町だから…仕方がない
さっそくレイが1匹のモンスターを狙い試しに弓を引いて氷の矢を放つ
だけど、モンスターに当たる寸前に矢は弾かれ気付いた時にはレイは俺の前に立って庇った為にレイの腹に氷の矢が突き刺さる
「レイ!?庇わなくても俺はそれくらいで死んだりなんか…」
すぐにレイの怪我を回復魔法で治す
俺がレイの氷の矢を避けるコトはできない、ほとんど見えてないから速すぎて
でもいくらレイの氷の矢でも即死じゃない限り一矢当たったくらいじゃ俺は平気なのに
レイは俺の耳元に顔を近付ける
「オレの氷の矢でセリを傷付けるのは嫌なんだ」
そう言われて、俺はハッとした
レイはその氷の矢で俺を二度も殺したコトを強く気にしている
回復魔法があるから多少の火の粉は大丈夫だから戦いに集中してって言っても…レイにとってこれだけは絶対に嫌で…もしそうなったら自分が許せなくなるんだ
「うん…」
「ダメージが通らないとはこういう事なんだな、困ったぞ」
そのままレイは続けて俺の耳元で囁くように話すけど、ちょっと待って
「ふはっ、もう無理!こしょばいからそれ!」
俺は我慢できなくなって吹き出しながらレイを突き放した
和彦の時と違って変な気分にはならないが、俺は耳と背中が弱いから勘弁してください
耳元で話さないと聞こえないって言うのはわかるけど、俺はこしょばすぎて無理だった
笑ってしまう
んー、攻撃を跳ね返す敵か…これじゃ無敵と言われて当然か…
でも本当に無敵なんてありえるのか?攻撃を受けないなんて…
あー!考えたいのにスゲーうるせぇ!集中できねぇぞ!
声も通らない、足で地面を蹴ってもかき消される、ちょっとの音もコイツらの音にかき消される
なんとかコイツらの演奏を終わらせるには……これか!これしかない!!
「うわー!凄いよかった!!最高の演奏だった!!ありがとう!」
大きく拍手をして演奏を褒めて、強制的に終了させる作戦…
………。
意味なかった…
つか、俺の拍手も声もかき消されて届いてねーしな
これじゃどんな声も音もコイツらの演奏に割り込めな…あっ…いや待てよ
もしかして
「わっ」
試してみたいコトを思い付いた頃にレイに手を掴まれて引っ張られる
一度離れようってコトか、でもレイに試してもらいたいから
俺は首を横に振ってレイを引き止め、ちょっと屈んでと手振りで伝える
「レイ、あの演奏に入り込める?なんの楽器でもいいから」
レイの耳元で俺が思い付く作戦を説明する
「もしレイの音が入り込めるなら、それに合わせて攻撃すればどうなるか?」
やってみるとレイは頷いてくれた
失敗しても大丈夫、俺がサポートするから
それに無敵な奴ってのは無敵じゃなくなると大したコトないハズ…
こんなコト言ってると大した奴に化けたりして…
レイは暫く敵の音楽を聴き理解すると、音魔法でトランペットを取り出す
トランペットに自分の音を命令して敵の音楽へと入り込む
おぉ!凄いぞレイ!自然に溶け込むだけじゃなく、レイの音を加えたコトで音楽は最高に感動するほどの傑作に仕上がる
やばいよ!さっきまでただうるせーだけの不愉快だった音楽が、一瞬で俺は好きになった
レイは天才だ!音楽の天才なんだ!
レイの音楽のファン第1号として俺はめちゃくちゃ心が高鳴る、ときめきすら覚えるほどに
モンスター達も演奏しながらレイの音に感動して泣きながら喜んでいる
おーっし!作戦変更だ!オマエらそのまま満足してフィナーレを迎えろ!それで終わりだ!解決……
「レイ!さくせん…へ」
伝える前に音楽が止まり、目の前のモンスター達はレイの氷の矢を受け地面に倒れながら震えている
「うわー!?なんて酷いコトするんだレイ!!」
「セリが音に合わせて攻撃すればいいってさっき言ったじゃないか」
「い、言いました~!俺が悪かったです!!レイは悪くない!」
倒れ込むモンスター達に駆け寄り楽器を取り上げてから俺はみんなを回復する
「セリ、どうして助けたりなんか」
レイは危ないから近付くなと俺を引き止めるけど、俺はモンスター達を受け入れる
攻撃して来ないしレイを見て怯えてるから、悪い奴らじゃないのかも
俺の足元にしがみついて震えてる姿がとても可愛い…
「さっき、レイの音が加わってコイツらが感動して泣いて喜んでるコトに気付いた?
悪さが過ぎただけで、コイツらは俺達と同じ音楽が大好きなんだよ」
「それは…気付かなかったな…」
レイは音楽好きと聞いて仕方ないなと大目に見てくれる
「もしかしたら、足りない音を待ってたのかも?レイの音を待ってたんだよ
なんて話は綺麗過ぎか?」
だからあんな大音量でアピールして自分達に足りない音を呼び寄せようとしたのかも
わからないけど、そうだったら素敵だなって
それにレイの音ひとつで最高の音楽に化けたコトは本当なんだしな
「綺麗なのはセリだけでいい…
良い方に考え過ぎだ、セリは甘いな」
レイは俺に甘いもんなー
俺はモンスター達をかき集めて、話が通じるかわからないがよく言い聞かせる
「レイが許してくれたから、オマエ達のコトは殺さないよ
でも、あの大音量はみんなの迷惑になるからもうやっちゃダメだぞ?
音楽は時間と場所と音量に気をつけてやるコト
レイは優しいけど怖いから今日は許してくれるけど、次は許してくれないからな」
しゃがみ込んでモンスターみんなの顔を見ながら微笑むと、モンスター達に話が通じたのか泣きながら抱きついてきた
かわいい…かわ……いや重い!!見た目は小さくて可愛いモンスター達なのに体重がめっちゃ重い!!
「う、嬉しいけど…支え切れないから…」
気付いたレイが一睨みするとモンスター達は固まって俺に抱き付くのをやめた
「ご、ごめんよ…抱っこしてあげたいけど、俺には重くて抱っこできないかな」
モンスター達はレイと俺に深々と頭を下げた後、大人しく町から去ってくれた
「バイバイ、またオマエ達の音楽聴かせてくれよ」
これで一件落着か
モンスター達に手を振りながら見送る
すっかりこの町は静かになったな
レイと目が合って、解決したコトに笑い合った
こうして俺達は成功報酬として100万円をゲットしたのだ!!

暫くは余裕のある生活ができるな
あっという間になくなるからまた早いうちに仕事はやらなきゃいけないだろうけど、気分転換は出来るぞ!
ほくほくの気持ちでユリセリの洋館に帰る途中でレイが
「このまま和彦さんの所へ行くなら送るよ」
と気遣ってくれる
「えっ!?」
思っていたより早く仕事が終わって夜になる前だった
今日終わるなんて思ってなかったから心の準備が出来ていない
「い、いや…今日は帰る」
「そうかい、それじゃ明日の朝送ろうか」
「心の準備をしてから和彦に会いに行くから!明日か明後日か1週間か…いつか」
意識してたら一生会えない気がしてきた…
いつもは気にしないけど、たまに誰かに言われた時に急に恥ずかしくなって隠すようにツンとしてしまう時がある
「あ、明日で…お願いします」
「わかった、明日は早起きするよ」
「朝行くなんて行ってないだろ!俺はゆっくり寝るからな!レイだけ早起きすれば!」
いつもは、和彦の浮気のせいで俺の好きって気持ちが下がって冷めてたりするから恥ずかしいよりコイツとは今日で終わりだってのが強かったような気がする
最近は浮気してないし、和彦が素直に言うから…愛されてるって思ったら…
変に緊張して胸が高鳴るんだよな…いまさら付き合いはじめみたいな感じ、なんなの?って感じだが…
「そんなに行きたくないなら無理には言わないぞ…?」
「えっ!うっ…ウソ、本当はすぐに会いたい」 
照れくさくても、好きを疑われるなら素直になるべきだ
ごまかしたって意味がない、好きならちゃんと好きって言う
記憶を取り戻した俺は強くそう思うよ
「楽しみにしてる、和彦に会うのめっちゃ楽しみだから明日は朝早くから会いたいよ」
幸せな笑顔で言える
俺が笑うとレイも笑って頭を撫でてくれる
「うんうん」
「ふふ、これでレイもセリカと旅行出来るね、舞い上がって今日のお金使い過ぎるなよ?」
「セリカにおねだりされたら自信がないな」
ハハハとレイもとっても楽しみにしてるから、今日は頑張ってよかったな
俺はいつも応援しかしてないかもだけど…
色んなコトがあって…暫くは辛かったけど、時間が経てば少しずつ前を向ける
思い出したら悲しいし苦しいけど
過去は変わらないから…今をちゃんと生きて、大切な人達と一緒にいたい
まだ…俺はこうして笑うコトができるから、大丈夫……

ユリセリの洋館へ帰るとツインメイドの片割れが出迎えてくれた
「えっ?和彦が呼んでるって?」
帰って早々にメイド片割れから聞かされる
「はい、大事な話があるから屋敷に来てほしいとおっしゃっておりました」
「大事な話ね…」
なんだろ?
今日の朝に会ったばっかりでその後に大事な話があるってメイド片割れに伝えたってコトはかなり急ぎで重要な話ってコトだろう
何かあったのかもしれない
「朝会ったばかりの和彦さんがそう言うなら何かあったんじゃないだろうか」
レイも同じように思ったみたいだ
それに朝言ったばかりだ、暫く時間がないからって…それでもなら
なんだか、嫌な予感がする…
「わかった、行ってくる
話によって今日は帰れないかもしれないから」
「オレも行こう、このタイミングなら何かあったんだろう
オレの力が役に立つかはわからないが
、セリの大切な人の一大事なら助けたい」
「ありがとう…レイ、いつも…ありがとうね」
和彦に何かあったのかって不安な中、レイが着いていくと言ってくれて心強かった
このタイミングで大事な話はきっと悪いコトだと思うから
どんな話か想像も付かないけど、俺は和彦の力になれるのかな
回復魔法しか俺には誇れる取り柄がないぞ……
メイド片割れに見送られながらレイと俺は和彦の屋敷へと向かった

和彦の屋敷に着くとすっかり夜になってしまったな
俺はまたフェイが出て来るんじゃないかって構えてたけど、玄関では珍しくフェイじゃない人に出迎えられる
ちょっとホッとする…二度と見たくない面だし
和彦はなんでフェイを殺さなかったんだろ…あの和彦なら俺に手を出したフェイを殺して当然
いくら身内であっても和彦には関係ない
俺の目の前で腕を切り落とすから怖くなって俺が止めたってのもあるけど、まぁ殺すには惜しいよっぽど優秀だったってコトなんだろうな
玄関で会った人から和彦は部屋にいると言われ、レイと俺は話すコトなく廊下を歩く
部下達の様子からして、和彦に何かあったワケじゃないのか?
屋敷の中はいつもと変わりなく静か、おかしい所はない
和彦は自分勝手な奴だけど空気は読める
このタイミングで会いたかっただけなんてオチはない
やっぱり話を聞かないとわからないな
「ここが和彦の部屋だよ、ノックして入るぞ」
レイにそう言うと頷くのを確認してから俺はドアをノックして和彦の部屋へと入る
「和彦、レイも連れて来たけどよかっ…」
部屋に入ると和彦だけじゃなくもう1人いるコトに気付く
言葉に詰まったのはそのもう1人が部下でもない女性だったから
和彦好みの巨乳美人……
ひやっとする…そこに女の人がいるだけで…和彦の隣にいるだけで…
浮気相手か?って勝手に悪い方に思考が持って行かれる
今までこんなコトなかった…
和彦はどんな浮気相手も一切俺に見せたコトがなかった
だいたいいつも細かいコト(香水の香りや髪の毛が服についていた時とか)に気付いた俺が浮気した?って聞けば隠さず言うからで…
だから…違う、この女の人は何か理由があって…そこにいるんだ
大事な話の…
「レイも一緒に来たんだ、いいよ座って」
違うって考えようとしても何故か身体が勝手に震える、表情が固まる
笑えない…
そんな俺の様子にレイは気付いて、なかなか足が進まない俺を支えながらソファに座らせた
「和彦さん、先に聞きますけど大事な話って悪い事ですか?」
何も言えない俺に、和彦の顔を見るコトすら出来なくなって俯く俺の変わりにレイが聞く
嫌な…嫌な予感がする…空気でわかる
もう逃げたい…何も聞きたくない、知らないままの方がいいよ
「はっきり言って別れ話」
………。
目の前が真っ暗闇に落ちていく
終わりは突然やってくるのか…
言われたコトを受け入れたくないのに、頭の中にはもうその言葉がしっかりと刻み込まれている
息苦しくて身体が震えるけど
「なんで…冗談だろ?そんな急におかしい…信じない…信じられない…信じたくない
和彦はたった半日で俺を好きじゃなくなったって言うのか?」
顔を上げて和彦を見るのはこの現実も言葉も否定したいから、まだ今なら撤回できるってしがみついてしまう…
「そ、それに…別れ話なんて…2人っきりでするもんだろ
今はレイもいるし、そこに女の人だっているじゃん」
震えた声も冷たくなる手も、俺じゃないみたい
朝までの和彦を引き止めたくて、今までの良い思い出ばっか思い出してはまだ大丈夫だって自分を保とうとする
「セリくんに飽きた、もういらないんだよ」
あ…そうなんだ…もう和彦からは愛情の欠片も感じない
今まで愛してくれてたコトも忘れたかのように冷たくなって…まるで他人だ
「なんで…」
「この女に本気になったから、本気で愛してしまったんだ」
そう言って和彦は俺の目の前でその女にキスをする
嫌だ…なにこれ……嘘だよ…こんなの
キスが激しくなって来たと思ったら女を押し倒し服を脱がそうとする
ふざけんな…目の前でヤろうって言うのか?
ショックが大きすぎて身体が動かない…辛いのに、目を反らしたらそれが本当のコトなんだって認めたような気になるから離せない…
やめて…やめろよ……こんなの、なんでそんなコトするんだよ!!
俺がまだ好きなのわかってるくせに…!
和彦は俺をもう愛してなくても、俺はまだ変わらず大好きで愛してるのに…
「和彦さん!!」
目の前のコトが我慢の限界で耐えられなくなる寸前でレイが和彦を掴み殴り飛ばす
「あんたが心変わりして別れ話をする事にオレはとやかく言いはしない
他人の心を強制する権利はオレにはないからな
オレが腹立たしいのは、セリを傷付けるようなやり方をする事だ!見損なったよ、そんな男だったなんてさ!
関係ないとは言わせないぞ!!」
和彦の胸倉を掴みまた殴りかかろうとするから俺はレイの手を掴んで止める
ショックな光景がなくなったコトで俺の身体はようやく動けるようになった
レイがこんなに怒るのははじめてだ…
一緒にいれば喧嘩するコトも多くてレイが怒るコトはたまに見るけど、今の怒り方はこれまでとはまったく違う
「やめろレイ、いいから離れろ!」
和彦とレイの間に入って2人を引き離す
「セリ!どうしてこんな男を庇うんだ!?」
レイが手を伸ばすより先に俺は和彦に掴まれ引き寄せられる
「ちっ、痛ぇな!!」
気付くと左頬に鋭い痛みと熱を感じ俺は床に倒れていた
ま…っ、何が……下から見上げると和彦が俺を睨み付けている
すぐにわかった…俺は和彦に殴られて……その衝撃で床に倒れたんだって
えっ…痛い、痛いよ……
殴られた所が熱を持ってピリピリして口の中まで切れて血が滲んで変な味がする…痛い…痛いんだよ、なんで……
和彦は俺を殴ったコトがない、はじめて殴られた
和彦が俺を殴るなんて…もう本当に気持ちがないってコト…なのかよ…
どうして、朝まで変わらなかったのに…急に…こんなの…夢ならいいのに
こんなに痛かったら夢じゃないよ、現実なんだってわかる
「和彦さんが…セリを殴るなんて…」
口に溜まった血を吐き出して力の入らない身体を無理矢理起こして立ち上がる
足が震えて、立ってる感覚がない
息苦しい…痛い…頬も口の中も頭も心も、全部…痛いな
「…っ許せない!!あんただけは…」
いつもならすぐに駆け寄ってくれるレイが動けなかった
レイも予想外のコトで暫くは理解が追い付いていなかったみたいだが、俺が立ち上がるとハッとしてまた和彦に掴みかかろうとしたからまた間に入って止める
「セリ…だから、どうして…ここまで最低なクソ野郎をまだ好きだって言うのかい?
さっさと現実を受け入れて別れろよ!!」
レイの怒りは俺が入っても落ち着くコトはなく、俺は自分の中にある何かが切れてしまったような感じがしてもう何も考えられない
「別れろなんてレイに言われたくねぇよ!別れるか別れないかなんてレイには関係ない!!」
レイは…俺の為に怒ってくれたのに、止まらなくなってる
こんなの八つ当たりだ…最低だ、わかってるのに自分を止められない
和彦に別れ話をされて余裕がなくなってる
精神的に…辛い…もう耐えられないんだよ
「関係なくない!セリはオレの初恋の人なんだ、だからセリを傷付ける奴は許せない……こんな最低野郎、オレは認めない」
耐えられない…無理だよ、それ以上言うなよ…
「……重い…初恋だからって…今そんなコト言われても、しんどいだけ…
認めないってなんだよ、オマエは俺の元彼かなんかかよ
一度も恋人になったコトもないのに、やめて……くれ」
痛いのが…痛いのが…止まらない
「セリ…それでもオレは…」
「うっ…ぅ…ひっ………く、ぅ」
我慢してたのに、もうこぼれ落ちてしまった
何も言いたくない、何も考えたくない
なのに涙だけは止まらない、痛いのだけなくならない
悲しいのも辛いのも寂しいのも苦しいのもなくならない
もうここにいたくなかった俺は何も言わずに誰も見るコトなく、部屋を出る
「よりは戻さないからセリくん、そのつもりで」
部屋を出る前に和彦からトドメの言葉を刺される
わかったよ…これで俺達は別れたってコトなんだ
もう今日で和彦とは何もない、恋人じゃなくなったんだよ

屋敷を出て夜道を歩く
その後ろから距離を開けてレイが歩いてる
「痛い…うぅ…痛いよ…ずっと…痛い……」
左頬を手で抑えて痛みを我慢しているけどずっと痛いままだった
トドメの一言まで貰っておいて、まだ和彦が追いかけて来てくれたらなんてバカなコト思ってる
未練がましいのは本気で好きだったから、幸せだった時のコトを忘れられないから
泣いてるのは、傷付けられて…苦しいから
なんでだよ…和彦のバカ野郎
「セリ…そっちじゃない、何処へ行くつもりだい」
「わからない…何処に帰っていいかわからない」
ふらふら歩いてしまう俺にレイは駆け寄って肩に手を伸ばされる
「触るな!!」
レイの手が途中で止まる
「今は触られたくない……誰にも、触られたくない」
「セリ…」
「話もしたくない…先に帰って」
「放ってはおけない」
「もうどうでもいいよ…
それともなんだ?失恋した俺を慰めて付け入ろうとか考えてる?
初恋の人が自分を好きになってくれる絶好のチャンスだもんな、これって」
思ってもいないコト、勝手に口から出る
傷付けたくないのに…どうでもよくなって周りも突き放してしまう
だから、ほっといてほしかった…
俺は全然大人じゃない…全然…ガキで、バカで…最低、性格悪すぎ
「慰めても…セリはオレを好きにならないってわかってる
今セリを抱きしめても、セリはオレじゃなくて和彦さんにそうしてもらいたいって思うから
傍にいてほしいのも優しくしてほしいのも、オレじゃ駄目な事くらいわかるよ
付け入る隙はないし、オレはセリの事…昔は初恋の人でも今は大親友なんだ」
レイは…大人だな…俺よりずっと…
和彦がいた時のさっきはレイもカッとなっていたけど、今は冷静で俺の言ったコトも本音じゃないって流してくれる
「だから、セリが抱きしめてほしいって言うまでは抱きしめない」
こんなに良い男…好きにならない人いるのかな…ってくらい…レイは良い奴だよな
「……じゃあ…寂しいから抱いてほしいって言ったら…」
「………セリは、そんな事…本気でオレに言わないさ」
レイは笑ってくれるけど、間があると迷ってんのかなって疑っちゃうじゃん
「本気だよ!俺にはもうレイしかいないって…わかるだろ、ずっと一緒にいるんだから」
「一緒にいるからこそわかる、そんな事をしたらセリを傷付けるだけ
寂しさを埋める事は出来ないし代わりにもなれない、セリが後悔するから」
そっと優しくレイは俺の腫れた頬に手を当てる
氷魔法かな…その手が心地よくて痛みが和らいでいく
少しだけ心も落ち着く
「……ありがとう、散々言って悪かった
レイの言う通りだ…
それにそんなコトになったら、レイも傷付けるとこだった…ごめんなさい
自暴自棄になってレイに八つ当たりして甘えすぎた
レイの気持ち踏みにじるようなコト言って、本当にごめん!」
「そんなに謝らなくていい
仕方ないさ、こういう時は甘えてくれていい
セリならいつでも甘えてくれていいよ
セリの言葉が本気かそうじゃないかくらいわかるし、セリの事は大親友として支えるから…いつでも頼ってくれ」
レイ…レイはいつも……俺の傍にいてくれる、わかってくれる…嬉しい
また泣きそうになる俺をレイが抱き寄せる
「さっき抱きしめないって言った!嘘付き!!」
「あっ違うんだ!これは癖で」
わかってるわ、それくらい
レイが俺のコトわかるなら俺だってレイのコトわかる
言い訳しながらレイはすぐに俺を離す
「帰ろうセリ…」
抱き締めるコトを禁止にされたレイはいつもみたいに手を差し出す
まぁ手を繋ぐくらいはいいか…俺はレイの手を取って帰る場所だけは見失わないようにした
誰にも触れられたくないけど…この大親友の手だけは離すべきじゃないとわかっているから…
その後は無言が続いて、俺の腫れた頬の痛みが続く限り思い出してしまってまた涙が止まらなくなる
そんな俺をレイはただ静かに見守ってくれて心配だけをかけ続ける
和彦の恋人になれたコトは奇跡みたいなものだ
いつも誰にも愛されるコトのない人生だったから
あぁ、俺は運命の通りなんだって納得する
運命がズレたら元に戻そうと大きな力が動くだけ
香月と恋人になったら運命のズレで世界が終わりを迎えるように
この世界に終わりがなくても、運命は俺を許してくれない
だから…もうすぐ、死ぬんだろ…いつも23歳で
俺、今23歳なんだよ…
だから、もうすぐ…もうすぐ…

そして、仲間も友達もいないハズの俺の運命はレイすらも俺から引き離そうとするんだ…


-続く-2018/10/27
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