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『Bilocation』

Bilocation『過去編:仲間』10

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Bilocation『過去編:仲間』10


「香月…」
声を出すと喉がさらに深く突き刺さるナイフの痛みを感じるのに心配でたまらなくて名前を口にする
それを見た香月は黙り込み迷うコトなく自分の手で自分の胸を突き刺し心臓を取り出した
人間と同じように香月の血も赤く、空いた胸の穴から溢れ出て来る
身体から引き離しても動く心臓をレイに差し出して
「これで私は1年も生きられはしないでしょう
…その子を私に返してください」
自分の命と引き換えに俺の解放を求めた
ちょっと待ってくれよ…
全然状況についていけてないのは俺だけなのか?
後1年しか香月は生きられない…?
もう一緒にいられないとわかった時、俺の頭の中は真っ白になって心が悲しみの色で染まる
レイが香月から心臓を受け取って油断している隙に俺はレイの腕から抜け出して香月に駆け寄った
「どうしてだ香月!?」
もうすぐ死ぬのに心臓がなくなったのに香月の表情はいつもと変わらない
平気そうなのに平気じゃない変な感じ
「死ぬなんて絶対許さないぞ!」
そんなのイヤだって喚くよ
だって香月は俺の大切な友達なんだから
「………そこまでして…」
レイが信じられないと言葉を零す
「香月が死んだら俺も死ぬ…」
いつの間にかそれだけ俺の中では大きな存在
今まで1人で動物達と生きてきた俺が始めてずっと傍で話せる人がそこにいるってスッゴイ嬉しいコトだった
幼なじみの恋時はずっと一緒にいたワケじゃないし
香月は助けてくれた守ってくれた
「セリも…
振り向きもしないんだな…」
悲しいようなレイの声が聞こえたと思ったら後ろから手が伸びてきて
「セリが泣くからこれは返してやる」
香月の心臓を俺の目の前に差し出す
そこで俺はやっと後ろを振り返った
レイの複雑だけど苦笑する顔が目に入る
「レイ…」
「すまなかったな
セリを傷付けるつもりはなかったんだ
ただ…魔王の事を試したかっただけ
自分の命差し出してくるような奴だから、オレの負けか」
俺を人質にして悪役やってたのは香月を試すタメだったのか
「信じてくれるのか?」
確かめるように聞くとレイは頷いてくれる
香月は心臓を取り戻すと表情は変わらないのにドコかさっきよりは顔色が良く見えてきてホッと安心した
「よかった香月」
ウサギ達がいなくなって香月までいなくなったら…
もう生きていけない
「ありがとう…」
レイのほうを向いてそう言うとレイはムッとしてそっぽを向いた
「言っておくが、信じたのはセリで魔王の事は嫌いだからな」
「私も嫌いです
早く私達の目の前から消えてください」
おい!?喧嘩すんな!!
また険悪な空気に包まれる
でも、口だけで2人からは本気でお互いを殺すまでの気配は感じられなかった
「馬鹿か
このまま帰るつもりないからな
セリがいるならオレもここに残るぞ」
「本当か!?
レイが仲間になってくれるなら助かる!」
帰ると思っていたのにレイがいてくれるなら嬉しい
仲間は多いほうがいいもんな
「………当然だろ
セリの1番の親友はオレだから」
「貴方を殺せば私が1番ですね」
なんなのオマエら!?
2人が俺のコトを好きなのはよーくわかったからちょっと冷静になろうぜ
男に好かれても嬉しくないって言う…
とりあえずこうして香月の所に帰るコトができてレイと再会するコトもできてよかったな


それから数日、俺を助けようとレイが攻めてめちゃくちゃになった城もなんとか修復し落ち着いた頃
レイとの戦いで魔族の数はかなり減って城は静かになったケド、香月はあまり気にしてないみたいでレイへの罰はなかった
軽いよな…
個人的に嫌ってるってのは感じるケド…
「俺さ、魔族と人間が仲良くなれたらいいなって思うんだ」
「突然どうしたんだ?」
レイとルルさんと向かい合わせで昼飯を食べてる時に俺はいきなり前から思っていたコトを話し始めた
「突然じゃねぇもん
前から思ってたコト
俺はレイやルルさん人間も好きだし、魔族の香月やイングヴェィも好きなんだ
魔族と人間が争うなんてイヤだって思うから、なんとかしてお互いが仲良くなれる世界にしたいなって…」
レイが来てくれて何でもできそうな気がしたケド、レイの強い眼差しにだんだんと自信がなくなってくる
またセリは甘いとかバカだとか言われそうだ
「素敵ね
あたしは賛成する」
ノリノリのルルさんの答えを聞いてからレイも軽いため息をもらすが
「…ありえないって言っても、絶対やるって言うんだろ
かなり大変な夢物語りだって覚悟はあるんだな」
認めてくれて協力の意志を見せてくれる
「うん!
まずは世界中で困ってる人達を助けて解決していく
魔族も人間も関係なしでな」
俺の考えは自分が世界で認められるくらい強い発言力を持つコトだった
すでに勇者って知名度があるケド、それだけじゃ誰も俺の話には耳を傾けないし信じてもらえない
だったら知名度にプラスして信頼性をあげる
絶大な影響力を手に入れれば…もしかしたら叶うかもしれない夢
それには地道に人助けをするコトにたどり着いたのだ
「長すぎる道のりだが…それしかないか」
「でも、セリくんはこの城から離れられないよね?」
うんうんと聞いていたルルさんがハッとして言うと俺もハッと気付く
そういえばそうだった…!
勇者は魔王を倒さない限りドコにも行けない
行くにはこの前みたいに俺を追う奴らからイングヴェィに守ってもらうしか…
それだとさらに魔族は悪い奴って印象が強くなる
「なら、自由に歩き回れる許可を取れば良いだけの事だ」
レイはそうナイスな提案をしてくれるが俺はどうやって?と首を傾げるしかなかった
とにかく行くぞと言われ早々にレイと俺は王様に会い話をするタメ一度自分の国へと帰るコトにした
善は急げって言うケド、思い立ったら即行動が早すぎる
香月とルルさんに見送られまた暫く城から離れるのは寂しいな~…なんちゃって


数日後、俺はレイに色々と吹き込まれ王様と会見した
「ほう…魔王を倒せるほどの力を付けたいとな」
魔王を倒そうとか思ってないケドな
各地を歩き回りながら修行をすると言うウソ八百を口から出まかせにペラペラと俺の代わりに隣にいるレイが話して王様を説得してくれる
「そうじゃな
唯一生き残り今も戦い続けてる我が国の勇者じゃ」
勇者を監視している国の偵察はイングヴェィの力で記憶は良いように塗り替え済みだ
ソイツらがどんな素晴らしい報告をしたのかわからないが、王様の反応からして俺はかなり良い印象があるみたい
「よかろう
立派に勇者をやっているおぬしには特別に世界を自由に歩き回る事を許可する
さっさと死んでしもうた他の勇者の国の王らも面目なく文句も言えんじゃろうしな」
機嫌良く笑い王様が許可をくれるとレイと俺は顔を見合わせ笑う
コレで俺は自由になれたと言ってもいい
魔王の城から出れば監視役はいつもついてきそうだが数人程度ならイングヴェィがなんとかしてくれるし
俺はもしかしたら自分の夢が実現するかもしれないと言うこの第一歩に高鳴る嬉しさに喜んだ
コレもレイのお蔭様だな
「ここからが本番だからなセリ」
「やれるコト全部やってやるぜ!」
とまぁ、許可を貰えたコトでますますやる気もアップするのだった

みんなへのお土産も買った帰り道、夜になると小さな村に泊まっていくコトになった
お金があるって素晴らしい!!
野宿しなくて良い素晴らしさ、宿屋にしかもちょっと良い部屋に泊まれるって素晴らしすぎる
後2日くらいで帰れるかなと考えながら疲れていた俺はすぐに深い眠りへと落ちていった
「やっと見つけました」
夢の中で神々しい光を放った女の人の声が聞こえる
それがすぐに夢だとわかった俺は人が光るとかありえない光景を目の当たりにしても冷静だ
「誰!?」
そして普通に知らない人だからこの反応
「探しましたよ勇者」
慈愛に満ち溢れた笑顔で女の人は…うんたぶん俺の勝手なイメージだが女神かもしれない
「いつも頑張っている勇者に私からプレゼントです
魔王を倒す力を与えましょう」
「えっ…?」
思いもしなかった女神の言葉に俺は一瞬止まってしまうが、女神は気にもせず何か魔法の言葉を唱えている
「えっ!?いや待ってくれ!!
俺は魔王を倒すなんてしないからそんな力いらないです!!」
「遠慮しないでください
タダですから」
遠慮してねぇ!お金の問題でもねぇし!!
俺の中で女神は勘違い女と言う格付けが決まった
そして全力で断っても強制的に魔王を倒す力を押し付けてきやがった
「これからも頑張ってくださいね!応援してます!」
「いや頑張らないし応援しなくていいです」
「それではサヨナラ~」
俺の話なんてまったく聞かずに一方的に女神は目が潰れるって思うくらいのまばゆい光を放ち消えていく
そこで俺も夢から目が覚め現実では朝になっていた
「っ!?何さっきの夢!?めっちゃ悪夢だったな」
身体を起こし、夢で与えられた力を現実に感じる
すぐにわかった…
俺には今までにはない力があるのを
でも、その力はまだ鍵がかかったような感覚で1人じゃ使えなさそう?
よくわからんのに何かわかると言う気持ち悪さ
あの女神…勝手に押し付けやがって今度会ったら覚えてろよ
俺は香月を倒したりなんかしないんだからな……
そんなコトもありながらレイと俺は魔王の城へと帰ってきた

帰ってきてすぐに会いたいのは香月だ
俺は自分の部屋にも寄らず疲れた足のまま香月の部屋へと向かう
「ただいま香月…」
帰ってきているのがわかっていたのか、香月は頷いて俺を迎えてくれた
王様に許可を取って自由に出歩くコトができたとかいっぱい話したいコトもあって
どれから話そうか考えていると
「私を倒さないのですか」
「…なんのコトだ?」
いきなり香月には知られたくないコトを聞かれて詰まってしまう
「その力を使えば、私は貴方に負けるでしょう」
変な女神に魔王を倒す力を与えられたコトに香月は気付いてるってわかった俺は胸が痛む
惚けても無駄か
この力は半信半疑だったケド…香月が言うなら本物なのか
「香月のバカ
使うワケないだろこんなよくわからん力」
じゃなくて…
「…香月のコト、倒したりしない
そんなの悲しいから
友達なのに…倒すなんてありえないだろ」
もしこの力がずっと昔に与えられてたら、俺はもうずっと昔に魔王の香月を倒してたかもしれない
その時の俺は香月がどんな奴なのか知らないだろうし知るコトもないだろう
今思えば、タイミング的にはよかったのかもしれない
こんな力があっても使わなければいいだけだし
心配なのは…この力を俺以外にもばらまいてんじゃねーかなあの女神ってコトだ
俺じゃない別の誰かが香月を倒しに来るコトも…可能性としては考えられる
考えると次々と襲ってくる不安と心配に眉を寄せていると、いつの間にか香月が目の前に立っていた
考え事に夢中で気付かなくて少し驚く
「安心しました
私にとって、貴方に倒される事が1番悲しいと感じる」
香月はそのまま俺を優しく抱き寄せる
………ん~なんか違う
大切にされてる好かれてるってのはわかるんだケド
魔族と人間じゃ表現の仕方が違うのかな
普通は友達同士で抱き合ったりしないような
いや…めちゃくちゃ嬉しいコトがあってテンション高かったら、抱き合って喜びを分かち合ったりするか
そんなんじゃないようなそんなんなような…
「うん…
倒さないよ…魔族と人間が一緒に暮らせる世界にするんだもん」
レイとルルさんには話した俺の決意と夢
香月にはもっと前から話してた
強く願うように叶うようにと俺は香月の腕の中で目を閉じる
未来のコトなんてわかんねぇ…
変わるかもしれないなんて…この時の俺はカケラも思わなかった

いつまでも俺は香月が大好きだと思っていたから……


-終わり-2012/07/24
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