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Moon Carnival

2021/02/11 『Lume de soarta』125~131話をアップしました。

131話『自分でもわからない』セリ編

『Lume de soarta』

イングヴェィの城に着くと、スゲー久しぶりで緊張する
現実味がないような幻のような不思議な場所だ
イングヴェィがふわっとしたような存在だからそう感じるんだろうか?
セリカの愛でしか存在できないみたいなコト言ってたような…
俺はそれはちょっと違うと思う
イングヴェィはセリカと出逢う前から存在していて、セリカを見つけ出したのもイングヴェィ自身だ
不老不死のイングヴェィはセリカの愛によってはじめて死ぬってコトなんだと思う
実際はどうかわかんねぇけど
「それじゃ、セリくんがしたいコトはなんでも言ってね」
イングヴェィは張り切っていこー!って元気だ
セリカはこの城にいてセレンのコトを見ていてもらうコトになった
アイツ、野放しにしたら何するかわかんねぇからな
「俺がしたいコト…そうだな、たくさんあるんだけど
結夢ちゃんを助けたい、フェイの石化を解きたい、セレンの国を取り戻す」
結夢ちゃんは俺が強くなって自分で助けたい
フェイは不本意だけど恩があるから助けてやってもいい、でも寝取られるのは死んでも嫌だ
セレンはこのまま腐り果てる前に女神に戻してやらなきゃな、BL趣味は個人の自由だがこのままいくと本当のヤベー奴になる
「……他は?」
「他は…思い出したら!!」
やるコトありすぎて改めて考えると逆にわからなくなるもんだよな
「とりあえずは、結夢ちゃんのコトが心配だからそこを目指す
それにフェイの石化悪魔はタキヤと関係してる可能性が高いから」
セレンの国を取り戻すには戦力が足りなさすぎる
タキヤとの決着は今の俺には無理かもしれないが…
そもそも結夢ちゃんの加護でタキヤが無敵状態とかどうやって勝てと…
とにかく、結夢ちゃんの様子だけでも確認できれば
もし連れ出せるならもう一度
「わかった、それじゃ支度が出来たら出発しようね」
イングヴェィはまた後でと言うが、その前に引き止める
「イングヴェィ…暫くセリカと離れるけど……いいの?」
「セリカちゃんはここにいれば大丈夫だよ、リジェウェィもカトルもいるからね」
「そうじゃなくて、セリカと一緒にいたいとか」
「もちろん一緒にいたいよ、でもその為には済まさなきゃいけないコトもあるんだよ」
セリカと繋がってる俺の問題が解決しない限り、セリカもそんな気分にはなれないってコトか?
確かに今のセリカは恋愛って感じじゃないもんな…
悶々としてるのは感じるけど
イングヴェィの言葉に頷き俺は出発の準備をしてからまたイングヴェィと合流した


イングヴェィと2人での旅は新鮮で変な感じだった
めっちゃ優しいし甘やかしてくれるし強いし頼りになるし
それは、何かを思い出すかのような感覚で複雑だった
全然似てなくて違うのに
レイとの楽しかった思い出が頭を過る
どうして、ずっと続かなかったんだろう…
前世の宿にさえ行かなければ…こんなコトにはならなかったのか
でも、レイは出逢った時からって言ってたから
きっと遅かれ早かれ同じコトにはなっていたのかもしれない
「セリくん、疲れた?」
次の休憩予定になる街へ行く途中の森の中だった
こんなところで野宿は嫌だ、早いところ抜けないと
目の前のイングヴェィの優しい顔を見てわかった
そうだ、イングヴェィは一緒にいて特別な感情があるけど
レイとは違う、レイと一緒にいたら楽しかった面白かった
大親友だったんだ…
「う、ううん…疲れてない!まだ何もしてないのに疲れてなんかいないよ」
違う、レイは酷いコトもたくさんしたしされたよ
良い部分と悪い部分が混ざり合ってわからなくなる
とりあえず…今は
イングヴェィに平気だって見せるために先を急ごうとしたら、イングヴェィに手で制される
「やっぱり、現れると思った」
イングヴェィの言葉の次に姿を現したのはレイと光の聖霊だった……
わかってたんだ…イングヴェィは……
本当は…俺だってわかってた
レイは俺を諦めない
だから、俺かセリカの前に必ず現れる
「邪魔者がまた1人増えたんだ
それなら1人ずつ消していけばいい」
有言実行かのようにレイの言葉とともにイングヴェィが後ろの木に張り付けになる
喉元には氷の矢が突き刺さり普通なら即死だ
ま、待って……見えなかった
レイが弓を引いたのも放ったのも…
何かがおかしい?レイから視線を逸らし横にいる光の聖霊を見る
すると光の聖霊は気まずそうに俺と目を合わせようとはしなかった
レイは、レイは人間じゃない
この感じ、この力…魔力が今までと比べて信じられないくらいの膨大な
「……ん~…厳しいな~…まだ本来の力は取り戻せてないみたいだからね」
喉元に刺さった氷の矢を引き抜いてイングヴェィは立ち上がる
俺はイングヴェィの傍まで駆け寄り傷を治す
「簡単には殺せないんだな」
「残念だけど、不死の俺は誰にも何にも殺せないよ」
イングヴェィは不死身だ
だからその心配はないけど、痛みは普通に感じる
俺がいれば無痛ではあるが
「それにしてもレイくんは性格悪いんだね
心臓じゃなくて喉を狙うなんて、俺の歌声に嫉妬してるんでしょ」
やられておいてそんな余裕みたいに笑ってられるのイングヴェィくらいじゃ…
「嫉妬しなければ、こうはなっていないさ」
誰が嫉妬なんかって言葉が返って来ると思っていた
だからレイの嫉妬しているって言葉に俺の胸は痛んだ
嫉妬って…いつから…
いつも笑ってくれていたから、わからなかった
いつもそんな素振りなかったから……
本当に、そうか…?
レイは俺とよくカップルに間違われていた時にいつも否定はしなかった
わからない…考えれば、思い出せば
何もわからなくなる
「レイくん、光の聖霊の力でエルフに戻ったんだ
人間じゃ強さに限界があるもんね
それにコンプレックスも抱いてた感じだったし」
そうか、イングヴェィが言ったコトでレイの違和感がハッキリとした
いつもと何かが違うと思っていたのは、レイが人間じゃなくなったからなんだ
もっと強くなりたいって…言ってたもんな
懐かしい…レイとはじめて会った前世はこんな姿だったコト…出会いは最悪だったけど
「でも、人外になったからって何も変わらないよ?
セリくんもセリカちゃんも人外だから好きとかじゃないもん」
あれ?イングヴェィなんでそんな意地悪にわざわざ煽ったりするんだ
イングヴェィはもっと優しい人なのに
「どんな姿になろうとも、レイくんってだけで受け入れてもらえないんだよ
嫌いなんだよ、君のコト
君の愛する人は君のコトが大嫌いだから拒絶するの」
イングヴェィ…それは言い過ぎ…じゃ
俺はレイのコト拒絶してるけど
また見えない氷の矢がイングヴェィのいた地面へと無数に刺さるのが見えた
でも、今度はイングヴェィはその攻撃を避けて俺には姿が見えない
俺の視界に入ったのは無数の氷の矢が突き刺さった地面とレイの両手が切断されてしまっているコトだ
反射的にわかった
今のイングヴェィじゃレイに勝てない
だからわざと煽って攻撃を仕向けそれを読んだ
つまり、ここから一気にレイの首を狙いに行く
それが直感でわかった俺は考えるよりも先にレイの前へと飛び出した
「…セリくんがそう行動するのはわかってたよ」
レイを庇った俺の前にイングヴェィの刃が寸前で止まる
自分でも…なんでこんな行動取ったかなんて、わかんねぇんだよ……
なのに、イングヴェィにはわかってるって?
「セリくんはセリカちゃんだから扱いに凄く困るんだよね」
イングヴェィは俺に向けてしまった武器をしまう
「俺の思い通りに動いてくれないんだもん
絶対に、レイくんは今殺しておいた方がいいのに
次はこんな隙を見せてはくれないよ?
セリくんのコト守れないかもしれないよ?」
わかってる……わかってるよ
でも、ここからどけない、足が動かなくて
イングヴェィは仕方ないなって苦笑する
だけど…何もかもわかってるかのように笑ってくれる
「俺は君を幸せにするって誓ったから…わかったよ」
イングヴェィは両手を開け何もしないと見せてくれた
俺は…イングヴェィにワガママ言ってる
そんなのダメだってわかってるのに…
レイはイングヴェィだって殺そうとした人なんだぞ
それなのに俺って……最低だ
イングヴェィに申し訳なくて何も言えなかった
レイの方へ振り返り両手を回復してやる
「レイ…引いてくれ」
「セリは…甘いな」
逃がすつもりだったのに、レイは回復したその両手で俺を掴み人質に取った
外道じゃん…イングヴェィの忠告を無視した俺のバカって本当いつまで繰り返すんだ
「引くのはイングヴェィさんの方だ
セリを殺されたくなかったら消えろ」
「そこまで堕ちるんだ…なりふり構ってられないんだね」
イングヴェィは素直にレイから後ずさる
まただ…俺が人質に取られたらみんな何も出来なくなる
俺は香月やイングヴェィと違って不死身じゃないから…簡単に死ぬ
即死なら簡単に…終わってしまうから手も足も出ない
こんなバカな自分死んでしまいたくなる
周りに迷惑ばっかりかけて、なのに自分のワガママを貫き通そうとする勝手さ
そんな自分が嫌になる
でも、誰も俺が死ぬコトを望んでいない
それこそ俺はみんなを裏切るコトになってしまう
自分が大嫌いだ、いつまでも過去の思い出を引きずって
人は変わる…悪い方にだって
「セリくん、大丈夫、信じて」
イングヴェィならまた機会を見て助けに来てくれるんだろうな
いつも…いつも…
それでいいのか?
レイは俺の問題だろ、俺が解決しなきゃいけないのに
イングヴェィが見えなくなったところでレイは俺を離してくれた
お互い、何を話していいかわからなくて黙ってしまう
そして、俺は無意識にレイに強く掴まれた手首をさすっていた
どうも偽和彦事件をきっかけに、心の負担にかかる痛みは回復魔法の無痛が効かないみたいだ
「……と、とりあえず2人とも帰りましょうよ!」
気まずさに耐えられなくなった光の聖霊が口を挟む
「帰りたければ1人で帰ればいい
オレはセリがいれば何処でもいい」
き、気まずさがさらに増した
レイは光の聖霊にキツいんだよ
光の力も与えてもらって人間からエルフにまでしてもらったのに、恩とかないんか
「もっと優しくしてやれよ、最低だな」
「前にも言ったが、気を持たせるような優しさの方が」
「バカ!言わなきゃわかんねぇの!?これは好意の話じゃないだろ
恩の話だよ恩の、光の聖霊のおかげでオマエは強くなれたんだろ」
そうです!と言わんばかりに光の聖霊は得意げになっている
「うるさいな、オレの態度が気に入らないならいつでも離れればいいって言ってあるんだ
この女が自分で納得して力を与えてるんだよ
セリに言われる筋合いはない」
だからってオマエな~!!むっちゃムカついてきたところで光の聖霊が俺達の間に割って入る
「やめて~~~!私の為に争わないで!!」
意味は合ってるけど、なんか使い道間違えた感のある台詞だな…
「「ふん!!」」
光の聖霊の仲裁で俺達はそっぽ向いたまま
また気まずい時間が流れる
おいおい、このしょーもない時間をどうしたら
「いや待て、俺は光の聖霊と一緒に行くぞだってそこには結夢ちゃんがいるんだ
レイは帰りたくなけりゃずっとそこに座ってれば」
「わざわざ言わなくていい最後の一言が生意気でムカつく」
「そんな生意気でムカつく奴のコト嫌いだろ?諦めたら?」
って待てや!生意気って俺はオマエより5歳も年上なんだぞ!?なんで年下に生意気言われなきゃなんねんだ!!
「口が減らないな」
レイは俺の口に親指を入れて顎を掴む
喋れなくても噛むって言う反撃は出来るんだぞ!
レイの血の味が広がるが、レイは痛そうにしない
まぁこの程度で痛がってたらこの世界では生きていけないか
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、痴話喧嘩してても仕方がないじゃない」
「……それもそうだな」
レイはすっと俺から手を離した
光の聖霊スゲー、レイの扱いわかってて言ったな
わざわざ痴話喧嘩って言葉使って、恋人同士の他愛ない喧嘩と表現した
俺はそんな風に言われんの嫌なんだけど、こんなメンヘラDV男が恋人なんて
「しかし、帰るには帰れないぞ
セリは連れて行けない
またタキヤを暴走させる気か」
「でも」
「女神結夢の事が気にかかるんだろうが、今のセリに何が出来る?
何か策があるのかい?」
何もないです、今の俺の弱さじゃどうしようもないです
心配だけが先走ってるか…レイに言われて気付く
「そうねぇ、女神結夢を助けたいなら勇者自身が強くならなきゃ
魔族や魔物相手とは違うもんね~」
「女神結夢の加護があるタキヤには傷一つ付けられない
それじゃオレの手助けがあっても何にもならないからな」
「超強いレイの協力があっても無理ってなると…」
えっ…手助け?
何か、普通に喋ってたけど…この会話って今までのレイと同じ…?
まだ…レイは俺を助けてくれるの?
「……その顔、可愛い」
俺は知らず知らずに嬉しいって気持ちが顔に出ていたのかレイに指摘されて、すぐにムッとした顔を作る
「レイの力を借りるワケにはいかねぇよ
結夢ちゃんのコトは俺の力だけで助けたい
俺の問題だから、俺が助けるって約束したから」
今はその時じゃなくても、いつかは…
「勇者って意外と男らしいとこもあるのね」
「意外ってなんだ意外って!!」
「女々しいお姫様かと思ってた
仕方ないわね~、私が色々と情報集めてあげるわ
タキヤの弱点とか女神結夢の弱体化もありじゃない?」
光の聖霊はふふふと笑う
この好意は素直に受け取っていいのか…?光の聖霊って俺のコトめっちゃ嫌ってたと思うんだが
セリカがちょっと仲良くなったとか喜んでたけど、変わりすぎじゃねぇか
「いや、いやいや待って!!」
俺は光の聖霊の手を掴み少しレイから離れこっそりと話す
「一緒にいてくれよ!?レイと2人っきりは怖いって」
「いいじゃない、お互いもう一度向き合う良い機会よ」
「襲われるわ!!!」
「かもね」
光の聖霊はにこやかに笑っている
「笑い事か!光の聖霊だって嫌だろ」
「勇者なら良いかなって、レイが幸せならそれが1番って思うようになったの
私も大人になったわ偉い褒めて」
レイの幸せのために俺に犠牲になれと…?
まぁ、百歩譲ってレイの幸せのためだとして
それなら結夢ちゃんのコトで協力してくれるのはレイのためとは関係ないような
……女の考えるコトはよくわかんねぇな…
「やだやだ!無理!一緒にいて!お願い!頼む!!」
ただをこねる自分が情けないってわかってるけど、この後どうなるかわかってて引き下がれるかっての!!
「これはチャンスなのよ
貴方だって本当はわかってるんでしょ
レイと決着つけなきゃいけない事を」
光の聖霊の言葉に俺は自分が甘えていたコトを恥じる
逃げてた…嫌なコトから、また目を逸らそうと
イングヴェィからレイを庇ったのは俺だ
これは俺が決めたコトなんだった
なのに、また逃げるのは違う
「……うん、良い顔になった
それじゃ私は行くから」
そう言って光の聖霊は俺の覚悟を見てから消えていった
………待って、すぐに揺らいだ
だってレイとの決着はいつかってぼんやり考えていただけで
ちゃんとしっかりまだ考えてない!!?
それをいきなり1人放り出されたら無理しかないんじゃ…
振り返るとレイが待っている
そろそろ日も暮れるし…いつまでもここでうだうだは出来ないってコトか

近くの町で休むコトになった
レイと決着付けるってどうすればいいんだ…
何が1番良い選択なんだ
「部屋は別々で」
「そんなわけないだろ」
やっぱり?だよね?
前は同じ部屋が当たり前で一緒のベッドで寝るのが当然で
今は同じ部屋が一緒のベッドが恐怖しかない
静かな宿の部屋でやっぱり沈黙が多い
俺がソファに座ればレイも横に座る
「あっ、レイの耳…懐かしい…
はじめて会った時もこんな感じだったよな」
最悪な出会いだったけど
はじめて見るエルフが物珍しくて、特徴と言えば美形な姿と長い耳
そういえば、エルフにはまだレイ以外に会ったコトないな
あんまり人間の前には姿現さないんだっけ
姿は人間の時とあまり変わらないか
人間の時からレイはイケメンだったし
「また触ってもいい?」
レイと2人っきりの恐怖心より好奇心が増した
「………あぁ…」
まだ触れてないのに見つめるだけでレイの耳は真っ赤になっていた
そうか…そっか…レイは、俺のコト本当に好きなんだな
「カッコいい!」
ゲームキャラとかエルフ選ぶくらい憧れてた!カッコいいもん!
後、俺弓使いめっちゃ好きだった
カッコいいから!もう理由がカッコいいからしかなかった
「そう…か…」
あんまりにレイが照れるから触るのはやめておいた
その代わりにふっと息を吹きかけてみた
たぶん、俺はアホで危機感とかないバカなんだと思う
「からかうな…!」
怒られた
レイは立ち上がると俺から離れた
エルフの姿になったレイはその時の前世の影響を強く受けているのか、めちゃくちゃ童貞感が強かった
ふっ、ちょっと優位な気分
でも、安心したかも
レイがこの調子なら大丈夫なのかもって
俺は張り詰めていた緊張が緩み一気に眠気が押し寄せてて、そのままソファで横になって眠る
起きて頭がスッキリしてから色々考えよう
どうしたらいいのか…
今日のレイはいつもと違うから、姿が変わったレイなら話し合えるのかもしれない
そしたら…


-続く-2021/01/31

130話『またみんなと一緒にいられるために』セリ編

『Lume de soarta』

今日この日、またはじまる
みんなとは暫く別々の道へ行くコトになるけど
それはいつかまた笑って会えるために必要なコト
もう大丈夫、自信も元気も取り戻した俺はなんだって出来るような気がするから
みんながいるから頑張れる
「セリくんはもう何もしないでイングヴェィの言う通りにしていた方が良い」
めっちゃやる気出してる俺をへし折るかのように和彦が釘を差してくる
「……確かに」
言い返そうと思ったが、冷静に考えたらそれが1番良いコトしか未来を想像できなかった
く、悔しいが……イングヴェィなら俺が1番幸せな選択をして導いてくれる
和彦も香月も俺が勝手に動いて余計な心配をかけるよりは…
和彦の厳しい目から逃れるようにイングヴェィを見上げると、あの大好きな太陽のような笑顔を見せる
「それでセリが納得する形なら良いんでしょうけれど」
イングヴェィに任せる、それが1番良いとわかっていても心のモヤモヤが晴れないコトに香月の言葉が刺さる
納得…そうか、そうだ……ずっと
「幸せになりたい
俺はずっとそう願って来たから」
「セリくん…」
セリカの表情が今の俺を映している
自分の顔は
「でも、全てが丸く収まって幸せになれるなんてそんな無茶なコトわかってる
だから…例え不幸でも、自分が納得するまで向き合いたいんだ」
不安だらけでも、その道を選ぶ覚悟があった
それはここにいるみんながいるおかげなのもある
それだけで俺は強くなれるよ
バカみたいに単純だ
「心配かけちゃうけど…後悔する方がずっとずっと嫌だ……」
和彦は俺がこう答えるってわかってたみたいで、呆れながらも仕方ないなと肩をすくめる
「好きにしな、でもこれ以上は無理だと判断したら監禁するから
また死なれかけても嫌」
「そうですね、次はないと言う事で」
和彦と香月の圧が…死ぬほど恐いんだけど
恐いから逃れようと優しいイングヴェィの後ろに隠れてはみたものの
イングヴェィも困ったように笑って2人と同じように言う
「その時は仕方ないね…俺もセリくんが心配だから無理はさせないし
ダメだと思ったら、いくら君の言葉でも聞けないかも」
「……イングヴェィまで…」
セリカの真似をして、上目遣いでちょっと可愛こぶってみる
自分で自分がキモイ
「そうならないように俺が協力するんだよ
大丈夫、出来る限りセリくんの納得いくような形になるように俺も頑張るからね」
「やっぱいいです」
急に何!?って自分でも思う
なんか、こうやって他人に迷惑かけたり負担かけてる自分がなんか嫌になる
みんなもっと甘えて頼れって言ってくれるけど……俺だって男なんだよ!?
情けねぇじゃん!?
実際弱くてなんも出来ないあかん人間だってわかってるけど!!
でも見栄張りたいしカッコ付けたいし自分でやりたいもん!!
セリカはお姫様やってればいいよ、女の子なんだし可愛いから良いよ
俺は男らしくなりたいのに……
でも、きっとそんな理想の自分にはなれないってわかってる
だったら…俺はどんな自分が誇れるんだろう
自分の納得いく自分であるにはどうしたら
「そんなに急がなくても、セリくんも少しずつでも成長していけるよ
みんなより成長が遅いだけで、君には君だけのものがあるからね」
イングヴェィってなんでこんな優しいん?
セリカが羨ましいぞ
きっと恋人になってもめっちゃ優しいんだろうなって思うし
俺の恋人なんて2人もいるのに、見て?あれ?魔王と鬼神みたいな優しさの欠片もないんだけど
恐いわ
「それじゃ、セリくんの事は任せたよ」
和彦が鬼神達を連れて行こうとするのをセリカがちょっと待ってと止める
鬼神達は昨日の宴会ではしゃぎすぎて眠そうにしている
これ和彦の屋敷に帰ったら寝るやつじゃん
どんだけ疲れやすいんだ
「約束」
鬼神達が担いでいた石化したフェイをおろしてもらって、その手の小指に自分の小指を絡める
「フェイをこんな姿にした悪魔を倒して元
に戻すからね
それまで待っててね」
それを見ていた和彦がセリカをぎゅっと抱き締める
「セリカは良い子」
どさくさに紛れてまたセリカの胸を揉もうと手を近付けると触られる前にイングヴェィが和彦の手を掴んで止めた
「セリカちゃんはフェイくんにお世話になったから恩返しするとっても良い子なんだよ」
「ふーん、イングヴェィって恐いもの知らずだな
いいよ、セリくんに止められているから引いてやる」
「ありがとう、君が味方でよかった
もし敵にでもなったら結構大変だよ」
終始お互い笑顔なのになんか雰囲気がめちゃくちゃ恐いんだけど…
もしかして相性最悪なんじゃこの2人…
ってか和彦は香月とも相性最悪だ
和彦と相性良い人いないんじゃないか
それもそうだよな、和彦はセリカにセクハラするからイングヴェィにとったら許せないだろうし
でもイングヴェィの線引きがどうなってんだ
膝枕は許せるけど、胸へのタッチはダメなのか
火花が収まると和彦は鬼神達(石化のフェイも)を連れて行ってしまった
和彦を見送ってから俺は香月へ向き直る
「俺達も行くね、香月は明日からこの城を留守にするんだよな」
「えぇ」
「じゃあ…また……」
寂しい…けど、仕方ない
今はやるべきコトに集中しないと
香月の両手を掴んで一時の別れを惜しんでしまう
この手を放したら暫くは会えない
「…このまま攫ってもいいですか」
………えっ!?
香月の言葉にめっちゃ顔が熱くなって全身が沸騰しそうになる
パッと手を離して背を向ける
「そ、それは…また…今度」
恥ずかしくなって逃げるようにイングヴェィとセリカの手を掴んで外へと出る
はぁ…心臓死ぬかと思った
スゲードキドキする…あのままあの場所にいたら…俺は死ぬ
少し時間が経って冷静さを取り戻すと、香月はああ言って俺が行きやすいようにしてくれたのかなって思う
それも嬉しいけど…何もかも放り出して攫われるのも悪くないかもって俺は自己中な奴
「クス、セリくんってば真っ赤で可愛い」
「セリカだって真っ赤じゃん(俺のせい)」
「私もそんな身を焦がすような大恋愛してみたいなぁ」
羨ましいとセリカは夢見る乙女みたいな顔をしてる
やめて、大恋愛とか身を焦がすようなとか恥ずかしいから
ってか相手男だから、しかも俺2人も恋人いる反則なズルい奴だぞ
セリカはイングヴェィのコトが好きなんだと思ってた
俺がイングヴェィ大好きだから…まぁ人としてだけど
セリカと再会してからだ、セリカから大切なものがなくなっているような感じがする…
イングヴェィはそれに気付いてて…
2人が心配だな
俺はイングヴェィとセリカがくっついてくれれば嬉しいもん
前までは…イングヴェィじゃ…なかったのにな……


すぐにイングヴェィの城に向かうんだと思っていたけど、道中セリカから話を聞いた
ユリセリの所で世話になっているセレン達も一緒に連れて行くと
イングヴェィがいいよって言ってくれたみたいだ
ずっとユリセリに無理言ってたから助かる
今度はイングヴェィに甘えちゃうワケだが
ユリセリはセレン達を守る為に使い魔も出せないくらい結界に魔力を使っている
セレンは腐っても女神、自分の聖地を失ったセレンはとても弱く色んなところから狙われるようになった
普段ユリセリが使っている結界よりより強いものを、1人の魔力では出来ないコトをユリセリはやってのけている
凄い、強いぞユリセリ
そして俺はそこで再会するコトになる
ユリセリの洋館についてセリカは自分の家かのように
「ただいま!」
普通に入っていく
いつの間にそんな自分家みたいな…
セリカの声にユリセリがすぐに出迎えてくれた
相変わらず美しいなこの人、クールビューティー
「おかえり、心配したぞ
むっ?イングヴェィが一緒か」
「ユリセリさん、セリカちゃん達が世話になったね」
そういえばイングヴェィとユリセリは同族だった
めっちゃ珍しい伝説上の存在でなかなかいない種族だとか
セリカはユリセリにセレンの話などをして今までの感謝を伝える
そうこうしていると
「どなたかいらっしゃいましたの?」
奥の方からエプロン姿の楊蝉が…
「えっ…楊蝉……?」
俺に気付いた楊蝉が勢いよく俺を抱き締めてきた
「セリ様!お久しぶりですわ」
「うっ」
喋りたいのに楊蝉が俺の顔を胸に押し付けてきて息が出来ない
男として最高のシチュエーションなのに、そんなコトより楊蝉が生きてた…?
それが夢みたいで信じられなくて、俺は楊蝉の腕を掴んでちょっと引き離す
「待って!?楊蝉、あの時レイに…」
「えぇえぇ、死ぬかと思いましたわ」
思いましたってコトは死んでなかった、生きてた!?
「この通り、生きておりますわ
戻らなかったのはセリ様の負担になると思ったのです
悲しませてしまった事は申し訳ございません」
よかっ……た……
意識してないのに涙がぽろっとこぼれおちる
「ゆる…せなかった……レイが、レイは俺の大切な人達を殺すところまできていて……」
「はい…はい…」
喉が詰まって言葉が出にくい
それでも楊蝉はちゃんと聞いてくれる
「だけど…それ以上に、自分が許せなくて……」
もうこれ以上の言葉が出なかった
それを察した楊蝉はまた俺を抱き締めてくれる
楊蝉の体温を感じて柔らかさを感じて、この人は生きてるんだって示してくれる
「セリ様は悪くありませんわ…」
「悪いよ、だって」
奥の方からメイド天使の声が聞こえる
「あらいけませんわ、料理の途中でしたの
話の続きは後で」
「いや、大丈夫」
メイド天使の声で落ち着きを取り戻す
楊蝉に泣きついて甘えるなんて、なんて俺は情けない男なんだ
恥ずかしすぎて引きこもりたい
「ちょうど夕食を作っていましたの、皆様もどうぞ」
そう楊蝉に言われてお腹が鳴る
楊蝉はここに来てから料理のお手伝いをしてるとの事だった
「グータラで家事が一切出来ないセレンとは大違いだな~」
「私は女神だからいいんですの!!」
「俺達が稼いだ金も一瞬でオタク趣味に注ぎ込んで消すのは得意だよな~」
「お金より大事なものってあるんですのよ!!」
「余裕がある時は良いけど、ない時は控えろ!!」
同じ女神でも結夢ちゃんとは全然違うな
まぁセレンが引きこもりのオタクになってしまったのは、俺のせいでもあるか(腐女子のオタクは元々か)
楊蝉は魔王城にいた時は料理をあまりしていなかったみたいだが、薬膳料理が得意で漢方にも詳しく調合も出来るのだとか
俺の周りの女の子達って凄い人しかいないのでは?
「美容と健康にも良いの?楊蝉、素敵!」
セリカは美味しいとモグモグしている
セリカは美容オタクだから美容と健康に良いものが大好きだ
そんなセリカと楊蝉は話が合って仲良し
だから楊蝉は俺にも気遣ってくれるんだと思う
「まだ聞いてなかったけど、楊蝉も一緒に来てくれるのよね?」
夕食も終わり、お茶を飲みながらゆっくりしながら話す
「セリカ様、一緒に行きたいのは山々ですが…私では足手まといにしかなりません
私は、魔王城に戻りますわ」
楊蝉はごめんなさいと申し訳なさそうに笑う
そうだ…楊蝉は俺と一緒にはいられない
楊蝉が生きてるとレイが知ったら…今度は確実に殺しに来る
今日は泊まっていけとユリセリが言ってくれたけど、俺が誰かと一緒にいるってコトはその人が危険な目に遭うってコトなんだ…
忘れちゃいけないコトを思い出してお茶を置いて立ち上がる
「やっぱり…泊まってはいけない、すぐにここを出よう」
「セリ様!私はそんなつもりで言ったのではありませんわ
ユリセリ様の結界があるここは安全ですから」
「そんなのわかってるよ
でも楊蝉の顔を見てたら…レイと決着が付くまでは一緒にいられないって思うんだ
次は……次はきっと楊蝉のコト……」
確実に殺すんだって思うと、怖くてたまらない
ここにいるのが辛い…
こんなの俺が殺してしまうようなもんだ
だから…
「うん…夜だけど、今からでも出ましょう」
セリカがそう言うとイングヴェィもわかったと頷く
セレンにすぐ支度をするように言って、出来次第出発するコトにした
「セリカ、いつでも頼るが良い」
「ユリセリ…ありがとう」
その間にユリセリとセリカは話しをする
俺は楊蝉と
「ごめん、俺のせいで楊蝉まで危ない目に遭わせてしまって」
「私は天狐ですのよ、そう簡単には死にませんわ」
気を使って楊蝉は笑ってくれる
でも、俺はそれでも怖いんだよ
香月やイングヴェィのように不老不死じゃない
確かなものがないと不安でしかない
俺の表情が浮かないのを楊蝉は無理言うコトもなく
「今度会う時は…笑顔で会いに来てくれると信じておりますわ、セリ様」
最後のお別れの時までずっと気遣ってくれた
ちゃんと笑って、大丈夫だって自信を持って返せたらよかったのに
俺はずっと迷っていたから
香月と和彦と一緒だった時はなんでも出来そうな気になってたのに
現実を知れば、失敗は許されないんだって痛感する
自分の選択が間違ったら、間違った分だけ悪い方にいくんだから
そして、俺達はセレンとメイド天使を連れてイングヴェィの城へと向かう
いつか、またみんなと一緒に……
その為に俺は頑張るって決めたんだから


-続く-2021/01/03

129話『決意の支え』セリ編

『Lume de soarta』

久しぶりに鬼神達が目を覚ましたかと思うと派手な宴会を始めた
香月の城の一部の部屋を勝手に改造して宴会場を仕上げ、酒や料理を持ち運ぶ
酒、飯と来て、女が追加されないのは見た目や気性に反してウブな彼らには無理な話だったのかもしれない
何千年振りの地上にはしゃぐ気持ちもわかるが、とりあえず今回の宴会は世話になったこの城、魔族や魔物達とのお別れ会みたいな感じらしい
和彦と共に鬼神達は和彦の屋敷へと行くコトになる
世話になったって……はしゃぎ疲れて爆睡してる方が多くなかったか?
「畳とか座布団とか超懐かし~」
鬼神達と意気投合してハチャメチャに騒いでるキルラ達に巻き込まれたくなかった俺は端の方でお茶を飲んだり料理を食べたりとまったりしていた
あれたぶん、また疲れて寝るぞアイツら…
俺の周りにはセリカとイングヴェィと和彦がいる
「勝手に改造したのはビックリしたけど、私も懐かしくてたまには良いなって思ったわ」
俺とセリカと和彦は和風が身近にあった世界だったから懐かしいってすぐに馴染めたけど、イングヴェィやキルラ達をはじめとした魔族や魔物達は見たコトない造りに新鮮さと興奮を隠し切れていなかった
しかも鬼神達はセリカに着物まで着せてそれがもうみんなにめっちゃ受けている
鬼神達の中ではセリカは天女様なのだそうだ
地上に出てきたら他にも女性はたくさんいるからすぐにセリカのコトは飽きるのではと思ったが
鬼神達の好みが東洋系となるとかなり珍しいのかもしれない
この世界は人も物も西洋色が強いし
楊蝉も東洋系だがセリカとは異なるタイプで妖艶さがある
そんなセリカの膝の上には和彦の頭がある
「酔っ払った」
なんて和彦は言ってるけど嘘でしかない
コイツはいくら酒を飲んでも酔わないし底無しだもん
そう言ってセリカに膝枕させて甘えてるだけだ
………まぁ…俺が悪いんだけど
「明日からセリくんと離れ離れだし、結局最後まで抱かせてくれないし」
まだ言ってる…
「無理しなくていいって言ったのはオレだけど、ここまで頑固だとは思わなかった
香月も悪い、中途半端に復活するから」
「でも、香月が来てくれなかったら和彦もセリくんもこうしていられなかったかもしれないよ」
酒で熱くなった和彦の頬にセリカは自分の冷たい手を当てる
「…わかってる」
これ見て、あれ?って思うじゃん
あの嫉妬深くて独占欲の塊のイングヴェィが黙ってるなんて
和彦のコトはイングヴェィの中で俺の恋人だってちゃんと認識しているみたいだ
俺がセリカだから、セリカは俺だから
俺がイングヴェィを好きって思って抱きついてしまうのと同じ感じ
上手く言えないけど、自分(性別)を超えない範囲は自然なコトみたいだ
わかりやすく言うと、性的なコトが線引き?
膝枕はセーフらしい、俺は十分セクハラだと思うが…
「そういえば、その香月くんはここには来てないみたいだね」
イングヴェィは広い宴会場を見渡し言う
「セリくんが子供扱いするから拗ねて引きこもってるんだろ」
拗ねて引きこもるとか子供じゃん…
「香月は元々こういう場所好きじゃないぞ
俺が言わないと来ないよ」
いつかの花火大会の時もそうだったし
「それならセリくんが誘ってあげないと」
えー俺もこういう騒がしい場所嫌いなのにー
鬼神が来てほしいってしつこいから来ただけだもん
「んーわかった、香月と話したいしな」
イングヴェィの言うコトってなんか聞いちゃうんだよな
俺が立ち上がると和彦も一緒に行くと言う
セリカの膝から離れ座った和彦にセリカは水を差し出し、その水を一杯飲んでから和彦は立ち上がった
「いってらっしゃい2人とも」
イングヴェィとセリカに見送られて俺と和彦は宴会場から出た
廊下に出るだけで随分と静かだった
この城のほとんどの人がこの中にいるからだろうけど、防音がしっかりしてて凄いよな
「和彦までついて来るコトないのに」
香月の部屋の方に足を向けながらそう言うと和彦は珍しく怒ったようにむくれる
「待て、酷くないか?」
「何が」
「オレに対して、冷たいよセリくん」
待ってと和彦は俺の肩を掴む
「いや普通だろ」
「明日から暫くオレはセリくんの傍にいられないのに?」
「うん、わかってるよ
オマエにもやるべきコトがあるんだって理解してる
ずっと俺にベッタリなんて無理だってコト理解してるから」
ずっと傍にいて守ってくれるなんてそんな自分中心な話なんてない
コイツがなんの仕事してるか生活してるかなんて、今でも俺は知らないしわからない
なんとなく、闇社会の闇世界の、俺とは住む世界の違うコトをやってるんだろうくらい
和彦の部下達は礼儀正しくて俺には優しいけど……その裏の顔はどうかなんて…
知ろうとは思わない、和彦が話そうとしないから
逆かもしれないけど、俺が聞かないからあえて和彦も話さないのか…
和彦が話すならいつでも聞くけど…
でも、怖い気もする
俺には到底理解出来ないコトもわからないコトも知らないコトも、あるんだろうと思うと
それは香月にも言えるコトで、俺は好きな人の都合の悪い部分から目を反らしてる臆病者なんだ
自分本位の物差しで衝突するんじゃないかって…それが嫌だから知らないままでいる
本当にワガママで勝手だな自分って
「俺は、仕事と俺どっちが大事なんだみたいなコト言わねぇよ」
「セリくんが大事なんだけどな」
突然で不覚にも照れる
だけど
「だから、何もしないで何も考えないでオレの傍にだけいてくれたらいいのに」
急に冷たいものが流れるのを肌で感じる
怒っているワケじゃない…敵意を向けられてるワケでも
元から和彦には独特な恐怖を感じる雰囲気を持っている
魔王の香月とは違った別の恐怖
「他の事なんて他の奴なんて、見殺しにすれば」
それが本気で言ってるのか、いや脅しにも聞こえてくる
和彦はただの人間だ
なのに、人間じゃない大きすぎる力を感じる
人間に勇者の力は通用しない
和彦が本気を見せたら……
「なんて、セリくんが大人しくしてくれるわけないか」
「和彦…」
ふっと軽く笑ってくれる和彦の表情に俺の緊張が解ける
「セリくんの決めた事を止めるような事はしないさ
でも、セリくんが言うようにオレにもやるべき事がある
暫くは守ってやれない、だから心配だ」
さっきとは変わっていつもの和彦だ
やっぱり…俺が知らない顔だってある
和彦が優しいと調子狂う
心配してるって頭撫でられると…
「…大丈夫、俺はもう自分から死ぬなんてコトはしない
和彦と…離れるのは寂しいけど……今は仕方ねぇの…」
ついつい俺も素直な言葉が漏れてしまう
恥ずかしいから言いたくないのに!!
俺はやらなきゃいけないコト、やりたいコトがいくつかあるんだ
もう俺の運命は俺だけのものじゃないような気がするから
1つずつでも、決着をつけていきたい
もう諦めない…って思えるようになったのは
改めて決意出来たのは、香月と和彦と
イングヴェィとセリカがいてくれるから
俺の心は揺らがない、貫き通せる
その強さをみんなが支えてくれるんだ
急に足が地面から離れたと思うと俺は和彦に抱き上げられていた
「やっぱ最後の夜だし、やりたい、抱かせろ」
「やっやめろ!!おろせバカ!」
キスしようとしてくるから全力で突っぱねる
香月が復活したらその時に3人でって約束で和彦に我慢させたよ
浮気も禁止させて…わかってるよ、俺が悪いって酷いって
でも、香月が中途半端に復活して子供の姿なんて無理じゃん!?犯罪だぞ!?
「香月がいいって言ったら?」
いいよな、って和彦は無茶を言い出しそのまま香月の部屋へと向かう
香月になんて言うつもりだよ!?変なコト言うなよ!?
香月の部屋の前につくと恥ずかしいからおろせと言ったら和彦はすんなりおろしてくれる
そして2人で香月を訪ねた
「香月!今、宴会やってるから香月も一緒に」
先に香月の部屋に入ると後ろで和彦がドアを閉めたのはいいが鍵の閉める音まで聞こえた
……妙なコト考えてねぇだろうなオマエ
「それじゃ、はじめようか」
「待て待て待て!?何もはじまらせねぇよ!!?」
和彦が胸元を緩めて近付いて来るから急いで整えてあげた
香月が何しに来た?って怪訝に見てるだろ…たぶん
香月は表情があまり変わらないからわからん
「やっと3人会えたのに、香月だって子供扱いされたままでいいのか?」
「仲間を増やそうとするな!!」
香月をその気にさせようとする和彦を通せんぼして近付かせない
「セリは私が子供だと思っているのですか」
「えっ?んー…まぁ……」
振り返り香月を見る
まぁ…中学生くらいにしか見えないんだよなぁ、今の香月は
魔力も完全な魔王の時より半分にもならないし、人間の時の香月の方がまだ強さを感じたかも
って甘く見ていると、香月に腕を掴まれ引っ張られるとそのままキスをされる
ビックリしたのはいきなりキスされたコトじゃなくて、意外にも腕力が強かったコトだ
魔力が半分にもならなくても、それは魔王基準での話
香月は元からめっちゃ強いってワケでその力が半分以下になったからってキルラ達よりはずっと強い
「か、香月…まっ……」
押し返そうとすると、今度は後ろから和彦が寄ってきて無理矢理香月から俺の顔を奪うと激しいキスをされる
後ろから抱きしめられ服の中へと手を入れてくる
香月は香月で俺の服を脱がそうと触れられる手から徐々に俺の身体も熱くなって、このまま流されそうになるくらいだ
でも……!!
「いい…加減にしろ!!」
勇者の力で香月の手をはじき、和彦には思いっきり顔面に後頭部をぶつけた
鼻を押さえながらも俺から手を離したが、振り返った時には和彦は笑っていた
「ちっ、いけると思ったのに」
正直、負けそうだったよ
だって好きだもん2人のコト…だから、その…久しぶりだし
俺だって、したいよ…愛されて愛したいけどな
「セリは一度決めた事はなかなか曲げませんからね」
「香月はこの姿でもオレ達よりずっと年上なのにな」
なんか俺が1人悪いみたいになってる…このままじゃ押されて負けそうだ
「いや、悪かった
香月を子供扱いしたのは失礼だった
でも子供に見えて…そういう気分になれないって言うか……」
香月がどんな姿だって、いつだってカッコ良いし大好きだよ
この姿の香月だって、目を反らしてしまうほど意識してるしドキドキするし恥ずかしい
大人の香月と何が違うって言ったら…なんか…なんか…初恋の時の気持ちが蘇るみたいな…?
なんか懐かしいけどやっぱスゲー好きみたいな?
香月と出逢う時はいつも完全な魔王の姿で大人の姿なのに、その時にはじめて好きになって…なのに
なんでか上手く言えないけど、大人と子供の恋愛は違うって感じ?んーなんだろわかんねぇ
「今の香月が嫌いとかダメとか無理とかじゃなくて
こういうのするのは…いつもの大人の香月とが良い…
好きな気持ちは変わんねぇよ、信じて…」
話してると不安になってくる
香月は何も言わないし、感情がないからそれを表すコトもない
さっきまでは愛してくれてはいたけど、それがいつ無になるかわからない
当たり前が当たり前じゃなくなったら…
思わず香月に抱きついてしまう
すると、香月はちゃんと抱きしめ返してくれるし
「疑ってはいません
あの男に先を越されるのではないかと、私らしくありませんでした」
「それオレの台詞でもあるんだけど、抜け駆けされるんじゃないかって」
そうちゃんと言ってくれたら…わかるのに
香月はいつも言葉が足りないから不安になるよ
でも、俺は香月のコト誰よりもわかってるって自惚れるから
香月はずっと永遠に俺を愛してくれる…
どんなに…俺がまた忘れて生まれ変わって、嫌な出逢いをしても
何度でも心惹かれ絶対に俺を落としてくれる
「私が完全に力と姿を取り戻したら、待っては聞きませんよ」
「うん…」
今はこうして抱き締めてもらえるだけで死ぬほど幸せだ
なんだって出来るような気がする、自信も勇気も元気ももらえる
「暫く私はこの城を離れます
無茶はしないでください」
「大丈夫!」
香月も心配してくれる
香月だってやるコトがある
和彦と同じでずっと一緒は無理だ
俺にやるべきコトがあるうちは
何もかも投げ出して、香月だけが全てだったらずっと傍にいられるけど
でも…暫く離れる前に話せてよかった
「あの人ならセリを守ってくれる
もし、そんな存在がいなければ無理矢理にでも貴方を傍から離しはしないんですが」
さすがに俺1人ってのはみんな心配しかなくて、俺はイングヴェィに面倒を見てもらうコトになった
本当は自分が強くなって俺1人で解決できる力があればいいし、そう願ってるけど
現実は…甘くはない
俺には守ってくれる人がいないとダメなんだって情けない現実
イングヴェィにだって迷惑はかけたくないのに
「全ての決着がついたら…香月とずっと一緒でもいいな」
2人っきりの時間って少なかったから
香月と出逢えるのは、いつも運命の中では
ずっと先の最後…勇者だから
そして、そんな長い時間経つコトなく死ぬ運命だった
香月と2人っきりで過ごす…色んなところに行って色んなコトして…
そういうの…なかったから…いいな
「セリくん、オレは?」
急に和彦は香月と俺を引き離す
「えっ和彦とはいつでも好きな時に会えんじゃん
それじゃあ、香月も気を付けて元気で
また会える日を楽しみにしてるからな」
「待て、何か違わないか?
オレと香月の差が激しい!いつも贅沢させてやって守ってやって気持ち良くだってしてやってるのに」
「ありがとう和彦、感謝してる
最後はオマエの独りよがりだけどな
後、何々してやってるって言っちゃったらダサいし器が小せぇぞ」
「なりふり構ってられるか、オレにも笑顔でハグはないの!?」
………だって、和彦を目の前にすると…素直になるのはなんかムカつく
でも……いつも助けてもらってるし…
「暫く香月に会えなくなるって挨拶がしたかったから、そろそろ戻るよ
またね香月」
「はい、何かあればいつでも私を呼んでください
何処にいてもセリのもとへ」
香月の頬にキスして、またねと手を振って部屋を出る
一緒に部屋を出た和彦はかなり不機嫌だった
「セリくんは香月にだけ特別に優しくて」
珍しくぶつくさ言ってる
そんなに和彦は嫉妬深かったか?
愛されるのは嬉しいけど、和彦が普通の感覚を持ち出して自分だけを選べって言い出したらこの関係は崩れる
それはそれで構わない…どちらかを決めるだけだから
普通のコトだ
俺達が普通じゃなかっただけ
「香月は特別だよ、でも和彦だって」
香月の部屋を出てドアを閉めてすぐに俺は和彦に抱き付く
「香月とは違ってちゃんと特別だよ…」
ずっとこうしたかった
和彦のコトも大好きだから
でも、他の人の目があると何故かツンとしたくなる
和彦に素直になるって凄く恥ずかしい気持ちになるから…
「……分かりづら…」
不満だって怒っていた和彦の感情が落ち着いてくるのが肌で感じる
「いつの間にかセリくんに振り回されてる」
和彦は強く俺を抱き締めてくれた
「香月も言ってたな
待っては聞かないから、その時が来たらオレも聞かないよ」
「いっぱい我慢させてるから…好きにしていい」
「死なないって約束したのに、死ぬ覚悟があるなんて」
「それはオマエが加減しろ!!殺すな!!」
「セリくんがオレには素直じゃないってわかってたのに
香月といるとオレはそんなに愛されてないんじゃないかって感じて」
あの和彦が不安になるコトが?
「でも、後でちゃんと同じくらい愛してくれてるってわかる
これがオレへの愛情表現なんだってね」
和彦は軽いキスをしてから俺を離してくれた
「……ちゃんと…わかってくれる和彦も俺は安心する
そこも…好き」
「可愛い、絶対誘ってる、今すぐ食べたい」
「誘ってない誘ってない!!」
また抱き寄せようとする和彦を全力で突っぱねる
「まっ、香月には早く本来の姿に戻ってもらわないとな
暫く会えないが、オレもセリくんが呼べばいつだって駆け付けるから」
「うん…いつもありがとな」
香月も和彦も、暫く会えなくても遠く離れてても
この気持ちがある限り、俺はもう大丈夫
ここから全てに決着が付けられるかどうかはわからない
上手くいくか、現状より悪くなるか
未来はわからなくても俺は自分が納得するまで足掻いてみせる
抗って…抗って……今度こそ、この運命の不幸を変える
大丈夫、今の俺なら出来る
今までとは違うから、自分にさえ負けなければ
きっと…大丈夫


-続く-2021/01/01

128話『運命の再会』セリカ編

『Lume de soarta』

自分が消えていくのを自然と受け入れられる
天はたった1人の人間しか創らなかった
だから、何もおかしいコトなんてない
これが…おかしいコトなんて……
目を閉じて、私はたった1人の自分になるコトを受け入れようとする

…でも…


でも……

消えてしまう最後の一瞬だけ、私に強い後悔が過る
何もわからないのに、何もないハズなのに
それだけが…私が私でなきゃいけないコトなんだって強く感じて
本当は消えたくない
1人になりたくない
私は…私だけの……

「セリカちゃん」

私は私でいたかった
じゃなきゃ……この手は二度と掴めないから

私の名前を呼ぶ声が、懐かしいような、ずっと待っていたような
消えゆく私の手を掴まれて、私は閉じていた目を開ける
視界に映ったのはハッキリと見える
私の手を掴むとても綺麗な男の人……
「セリカちゃん、ずっと待っていてくれたんだね」
あぁ…思い出した……ウソじゃなかった、妄想じゃなかった、夢じゃなかった
「イングヴェィ…?」
信じられなかった
これこそ私に都合の良い最期の夢なのかと疑うほどに
でも、その疑いはすぐに晴れてしまう
だって……この手はしっかりと貴方がそこにいるって認識しているから
「待たせたね、ごめんねセリカちゃん
もうこの手を離さないよ」
周りの時が止まってるかのように感じる
イングヴェィと私の時間だけしか動いてないみたいに
「俺は君の運命の人だから」
そう言ってイングヴェィは私を抱き上げる
「今は逃げてあげる、でももう容赦はしないよ」
イングヴェィはレイに目を向けて言い放った
突然のイングヴェィの登場に誰もが驚き動けなくなっている
そのうちアクションを起こされるのが面倒だと考えたイングヴェィはみんなが固まってる間にひとまずここから離れると言う
そして、私にしか見えてないハズなのに結夢ちゃんの横を通り過ぎる時に
「君を助けてくれる人は必ず現れるから、それまで待ってて」
イングヴェィの一言に結夢ちゃんは頷いたけれど私からはその表情が見えなかった

町から離れたところでイングヴェィは私を下ろしてくれたけど、私はずっと混乱していて現実なのか夢なのかもよくわからないままだった
そもそもここで大丈夫なのかしら、レイにすぐ見つかりそうでハラハラするわ
「信じられない?」
「……えっ…と……」
「俺の存在、セリカちゃんに嫌われたら死んじゃうから
でも、こうして復活出来たってコトは…両想いってコトでいいよね!!」
イングヴェィは太陽のような笑顔で私を抱き締める
凄く…凄く……懐かしい…この感じも…匂いも……
「両想い…?」
「そうだよ!俺はセリカちゃんが大好きだから愛してるから、セリカちゃんもそうでしょ?」
嫌いじゃない=好きしかないのか
嫌い以外に無関心とか普通とか好き以外にも色々あるような…
イングヴェィのコト…私は……忘れられないほど心のどこかにあった気持ちなのはわかる…
でも…
イングヴェィは少し離れると私の顔を覗き込む
「……セリカちゃん…何かと引き換えに大切なものを失ってるね…」
大切なもの…?
そうだ、私はフェイを助けるためにあの大悪魔シンと引き換えたんだ
それは…たぶん、きっと…貴方のコトだってのはわかった
だけど、その大切なものがなんだったのかは…思い出せない
心に穴が空いた感じが凄く気持ち悪かった
「あ~ぁ、残念だなぁ~
両想いにはまだ程遠いかも、でも!これから好きになってもらえるもんね」
笑顔でイングヴェィは言う
スゲーポジティブなのも思い出したわ
「もう、大丈夫…これからは何も心配いらないよ」
イングヴェィは私の長い髪を一房掴みキスをする
あれ?私の髪…短くされたハズなのに
私が不思議に思っていると、私のコトがなんでもわかるイングヴェィはニコニコと笑顔を見せるだけだった
イングヴェィが私を、セリカでいさせてくれるんだ……
釣られて私も笑顔が零れる
「あの…イングヴェィ…ごめんなさい
貴方が消えた時、私はイングヴェィを拒絶してしまって」
私は逃げていただけだった
幸せを知らない私はそれが怖くてたまらなかった
ただの臆病者だった
イングヴェィはいつも私を想っていてくれたのに
いつも助けてくれていたのに、守ってくれていたのに
そんな人を私は傷付けてしまった
消えてしまったのは私が殺したのも同然だ……
もう、私は……大切な人を傷付けたりしない
「それは違うよセリカちゃん!!あれは…あれは俺が悪いの
勝手に嫉妬して不安になって、自分勝手だった…
君のコトが大好きすぎて、自分の気持ちばかり押し付けて…君の気持ちを考える余裕がなかった
本当に最悪な男だよ、君を守るって言っておきながら傷付けるなんて…」
私はイングヴェィの口元に手を当てて言葉を止める
「ううん…それこそ違うわ
私…私ね、自分がダメだから貴方達をそうさせてしまったってわかってるの」
「貴方……達?
俺がいない間にやっぱりレイくんと何かあったんだね…
さっきもレイくんからはよくないものを感じたよ
もっと早くに殺しておくべきだった…」
イングヴェィのヤンデレスイッチが入ったと気付いた私はイングヴェィの手を掴む
「レイは悪くないの!私の覚悟がなかっただけ」
「どうして庇うの?何があったか知らないけど、レイくんはもう君の敵だよ」
「もう…覚悟は、決めたよ…後は、きっかけだけ…」
私の言葉を通してセリくんの意志を感じたイングヴェィは口をつぐんでくれた
「……わかったよ、セリくんがそう言うなら仕方ないけど
セリカちゃんに何かあったら本当にレイくんのコトは容赦しないからね
セリくんはセリカちゃんだから、何も言えないじゃんもう」
ブツブツと納得はいかないけどってセリくんの思いを汲んでくれる
私に甘々なイングヴェィはセリくんにも甘々になるしかなかった
ごめんねイングヴェィ、でもありがとう
「イングヴェィがいてくれるからよ、私はなんでも出来るような気がする」
「無理しちゃダメだよ、セリカちゃんは危なっかしいからね
とくにセリくんはセリカちゃんであるコトも気遣って行動してほしいのに、いつも無茶するから心配だよ
まぁ…香月くんと和彦くんがいるから大丈夫だとは思うけどね」
ふふ、優しいイングヴェィ好きだなって思う
心配だって怒るコトもあるけど、ちゃんと私の気持ちを汲んでくれるから嬉しいな
「ふふ私、大切なものをたくさん取り戻したいの」
「協力するよ、もっと頼って甘えてね」
イングヴェィに会ってから、セリくんと繋がれるようになった
セリくんが私の負担を全て背負っていたものも返ってきた
もう自分1人に背負わせたりしない
これで良いの、セリくんが無茶しなくていいの
その変わり、私はまた弱くなったわ
イングヴェィにたくさん弱音を聞いてほしいコトだってある
辛かったコトも苦しかったコトも悲しかったコトも、何もかも…
でも、やらなきゃいけないコトがある
それが終わるまではセリくんと私も弱音を吐くワケにはいかない
私がイングヴェィを待っていたように、私を待っている人達がいるから
みんな迎えにいくよ、取り戻しに行くよ
こうやって、前を向けるようになったのは頑張れるのは
隣に貴方がいるから…
それはセリくんも同じ
私達はもう大丈夫
まだ…死ねない、ここで死ぬワケにはいかないのよ


イングヴェィと私はセリくんと合流するコトに決めて魔王城へと向かった
そして、キルラに
「あの時はよくもバカにしてくれたわね」
イングヴェィのコトを私の妄想の王子様と笑い転げていたキルラに対して根に持っていた私は現実を見せてやった
「………あっ、いたわ~思い出した~
なんで忘れちゃってたんだろナァー?許してセリカ様!!!」
香月が中学生くらいの姿で復活してしまいキルラ達も本調子が戻らないまま勇者の力を必要以上に恐れ、瞬時に命乞いされる
いや…そんな怒ってないけど
だって…あれは…仕方ないわよ
私が消してしまったのだから、私自身セリくんだってイングヴェィを妄想だとしていたのだし
「イングヴェィ!会いたかった~」
「セリくん、相変わらず可愛いね」
セリくんはイングヴェィの姿を見ると笑顔で抱き付く
何の曇りもなく素直なセリくんの振る舞いを見ていると、それは私のハズなのに複雑な気持ちを抱く
目の前の私は本来の私なのに、どうして私はそう出来ないんだろう
セリくんと私の違いって何か…わからない…
「……えっ!?香月!?」
ちらっと部屋の隅にいる香月に気付いた私は近付いて手を取る
セリくんから香月が中途半端に復活したって聞いてたけど
「やば!可愛い!!?何これ!?香月超可愛い!!中学生くらい!?背が近い!!
少し髪伸びた?やだやだ可愛い~」
ベタベタ中学生香月を触り愛でていると近くにいた和彦が突っ込む
「セリくんと同じコト言ってる…」
「あっ」
香月は窓から出て行ってしまい姿を消してしまった
「照れてる!!可愛い!」
「いや、あれは怒ってるだろ」
「でもカッコいい!!中学生でもカッコいい香月!!私の理想だわ」
「同じコト言ってるな…」
目をハートにして香月のカッコいい可愛い姿にときめいていると和彦は呆れながらも笑う
「それにしても」
イングヴェィ、和彦、セリくん、私、キルラ、ポップ、この部屋にいるもう1人に目を向ける
そこには石化したフェイの姿があった
セリくんに話を聞いて何があったかはわかっている
キルラ達魔族魔物の石化が解けたのは香月の復活のおかげ、なのはわかる…
「なんで和彦は石化解けてるのよ?」
「愛の力?アハハハ」
あんた人間よね…怖いわ
「和彦が愛とか似合わねー」
セリくんはツンデレな時がある
「愛の力と言うよりは、和彦くんは運命に抗う力を持っているからね
その力自体なかなか難しいコトなんだけど、それもとても強大なもの」
イングヴェィは珍しいと和彦を見る
「和彦くんがいなかったら…あの時、運命は終わっていたよ
本当に…和彦くんがいてくれてよかった」
私の…セリくんが死んでしまって終わるってコトをイングヴェィはわかっている
それは…もう和彦に頭が上がらないわ
和彦がいなかったらまた私は最悪の運命のループを繰り返し、こうしてイングヴェィに会うコトも出来なかった…
そう考えるとゾッとする
「和彦…ありがとう、セリくんを助けてくれて」
「お礼はその乳を揉ませてくれたら」
「調子に乗るなアホ!」
「セクハラでもしなきゃオレは死ぬ、セリくんヤらせてくれないし
香月が大人に成長するまではとか頭固い事言うから」
それにはちょっと同情する…あの和彦にこんな我慢させるとかセリくんにしか出来ないよ…後が怖いよ
和彦は完全に拗ねていた
「それより、フェイを助ける方法はないのかしら」
フェイをなんとか助けたい
フェイがいなかったら和彦のコトだって…
これもある意味、運命のひとつなのかもしれない
「そうだね、みんなを石化させセリくんを後押しして殺そうとした何者かがどこかにいるはずだよ
そいつを倒せばフェイくんの石化は解けるはずなんだけど…正体がわからないのは困ったね」
心当たりはタキヤの息がかかってる奴だ
セリくんの自殺にこだわってるのはあの男だから
「地道に探すっきゃないっしょ」
キルラはそれしか方法がないと言うが、現状手掛かりなしだと仕方がないのか…
「石化魔法使える奴片っ端から殺しちゃうとか?」
ポップは過激すぎる、すぐに却下した
みんなが色々と考えてくれて暫くすると和彦が口を開く
「フェイは…セリくんの為なら命を捨てられる男だ
このままでも、フェイは納得している」
冷たいとは言え、主人の和彦にしかわからないフェイの気持ちがあるんだと思った
命を懸けて…そんなの
「嬉しくねぇよ、気持ち悪ぃ
フェイは必ず助ける、今はどうしようもなくても…いつかは石化を解いて」
うん、私も!フェイにはお世話になったもん
だから今度は私が助ける番よ
「早く石化を解いてフェイに寝取られたいって?」
「……やっぱこのままにしとこう」
セリくんはフェイとの約束を思い出してやめた
けど、やめたのをやめた
「茶化すなアホ!とにかく、フェイには世話になったんだ
今度は俺が助ける番だ」
今はどうしようもなくても、いつかはフェイを助ける手掛かりを掴めると信じる
「寝取る…?フェイくんってそんなに悪い人なの?大丈夫なの?」
イングヴェィがセリくんを酷く心配する
いつも心配かけてる気がする…本当にセリくんは頭のおかしい人達に好かれるからホントに…なんか、申し訳ないです
「心配すんなってイングヴェィ、セリカには手を出させねぇから!」
「同じコトだよ!?」
イングヴェィが哀れに見えてきた…
私を好きになったばかりに…
セリくんが変な人達にしか好かれないから、凄く心配で複雑なような
「何かあったらいつでも言ってね
俺はセリくんの為ならなんだって力になるから、甘えていいんだからね」
イングヴェィがニコッと笑うとセリくんも笑顔を返す
「イングヴェィ優しいから好き」
またセリくんは思ったままに、素直に好きって気持ちを表すようにイングヴェィに抱きつく
そんな甘えるセリくんの頭をイングヴェィは撫でてあげている
ずっと…ずっと、前からモヤモヤしていた
私にはそれが出来ないから…
どうして、自分はそれが出来るのに、私には出来ないのか…それがずっと私の胸につかえて苦しく思う
「セリカちゃんもおいで」
そんな私に気付いたイングヴェィはセリくんを抱く反対の手で私へと伸ばす
いつも、イングヴェィは私をわかっているから
チャンスだってくれるわ、呼んでくれるわ
いつだって受け入れてくれるのに
私は…何に足を掴まれるのか、自分じゃわからないくらい動けない
「そんなコトより…」
はぐらかして、避けて、ごまかして…
後悔する
なんでこんな風にしか出来ないんだろうって
これじゃ、前のダメな私と何も変わらないじゃない
もう一度、またイングヴェィに会えたら今度こそはって決めたハズなのに
……私の…意気地なし……

夜になって、今日は遅いから泊まっていくコトになった私はセリくんの部屋で寝る準備をしていた
お風呂にも入って、髪を乾かして、スキンケアもバッチリ、ネイルも剥げていたから綺麗にする
最近はネイルシールが気に入ってるのよね
綺麗に仕上がるし簡単で楽だから
「セリカの髪はサラサラでツヤツヤしてるよな」
髪質は貴方と一緒なんだけど…
「長くて綺麗で俺はセリカの髪が好きだ」
寝る前に痛まないようにセリくんが私の髪をゆるめに三つ編みにしてくれていたけど、なんか匂い嗅がれてる…変態だ
まぁセリくんは私と違って髪が襟足くらいまでしかないから自分の髪を嗅ぐなんて出来ないものね
そんな私の髪を一度はレイに切られたって話はしていない
これ以上、セリくんの中でレイに対しての感情を左右したくはないから
イングヴェィが私の髪を元に戻してくれたし、問題はない……いやあるか
それでも私は言いたくなかった
絶対に怒るってわかっているから……
「ほら、出来たぞ」
ゆるめの三つ編みが完成したところでセリくんの手が離れる
「女の子って大変なんだな、色んなコトに気を使っていつも可愛くしてる」
人事みたいに感心してるけど私の努力が貴方の美しさよ、感謝してほしいわ
「それじゃあ寝ようぜ」
鏡越に見えるセリくんの笑顔に私は思わず呟いてしまう
「…羨ましい……素直な自分が」
「ん?なんで?俺がするコトってセリカがしたいコトだろ
すればいいのに、イングヴェィはもっとセリカに頼られたいだろうし」
「簡単に言わないでよ」
セリくんの発言にムッとする
デリカシーがないところ、ホント嫌い
「……男は単純って言うから、俺は自分でも単純な男だって思うし…だから…女の子は複雑なんだろうな…」
私の反応にまずいと気付いたセリくんは一生懸命気遣うように言葉を選ぶ
私達は文字通りの一心同体、セリくんは私であって私はセリくんである
だけど、それでも自分がわかり得ないコトもある
それはセリくんの男の部分、私の女の部分
ある程度は理解したりわかったりはするけど、完璧にはわからない
とくに女と接点がほとんどなかったセリくんからすると女の私のコトがわからないんだ
そう…女心は複雑なのよ、なんてね
「ダメ、今は考えないコトにするわ
だって私達には明日からやるコトが山ほどあるんだもの」
「う、うん…でもセリカ
きっと俺が何言っても私の気持ちなんてわからないくせにってセリカは怒るだろうけど
そんなに焦らなくてもいいと思うぞ
イングヴェィは器の小さい男じゃないし
そんなセリカをいつまでも待ってるよ、受け入れてくれるよ
俺は男だから単純でバカだけど、セリカは女の子だから
俺にはわからない複雑な部分もあって
いや…なんて言うか…
それでいいと思う
だって、セリカは女の子だから
女の子だから自分を大切にしてほしい
無茶するのもヤベー奴らの相手するのも大変なコトも、男の俺に任せればいい」
ヤベー奴らしか周りにいないコトが悲しいんだよ
そうだ…そんなコト、わかってるよ
セリくんは私なんだもの
男の貴方が情けなくてもダサくても惨めでも、必死に男として頑張りたいコトも
でも
「何もかも男だからって自分に押し付けられないわ」
「そこは立てろよな俺を
カッコつけてーのよ、男ってのは」
知ってる
だけど、心配しかないんだよ
バカで単純ですぐ騙されるその詰めが甘いところがね!?
「…すぐ泣くくせに」
「う、うるせーな!!」
セリくんは照れくさいとむくれて先にベッドへと入る
そして、早く早くと私に手招きをした
「う~セリカは柔らかくてずっと抱いてたい」
ベッドに入った私をぎゅっと抱きしめる
ウザイと思うけど、女に触れたコトがないセリくんを哀れに思っている私は仕方なくぬいぐるみと化していた
「あったかいし良い匂いするし、香月とか和彦とかと違った女の子っぽい匂い~」
おいやめろ匂いフェチってか同じ匂いだろ
それ自分でセリくんも女の子っぽい匂いって言ってるよ
和彦がよくセクハラする時にセリくんと私同じ匂いするって言ってたよ
「ねぇ…セリくんがこれからするコト…」
「心配するな、大丈夫…きっと上手くいく
どんなコトをしてでも…取り戻すよ」
言わなくてもわかる…セリくんがこれから何をするか
いくつもある中で、他のコトは大賛成だし協力するけど
1つだけ…心配なコトがある
レイのコト…いつか決着する時が来る
セリくんはもう覚悟を決めているんだ
それが心配だ
本当にそれが正解なのか…どうか


-続く-2021/01/17

127話『抗う証明』セリ編

『Lume de soarta』

魔王の力をセリカが持って来てくれたコトで、香月の復活も近い
キルラが言うには、魔王復活の儀式?みたいなのを行ってそれが1ヶ月くらいかかるらしい
本当にそれで復活するのか?って心配もあるが俺にはわからないコトだから黙って見守るしかないんだ
香月にもうすぐ会えるって嬉しいハズなのに、でも今はセリカのコトが心配でたまらない
俺が無理をさせているってわかってるのに…
俺は何も出来ない、自分に甘えてしまっているなんて…情けない
こうして、上手くいくコトを願うくらいしか
「セリくん、大丈夫か?」
「いや…あんまり…」
口数も少なくすぐに顔に出てしまう俺は和彦に心配をかけてしまった
「どうしたら、いいかわからなくて
俺には何が出来るのか、何をしたらいいのか…」
これ以上傷付くのも失敗するのも悪い方向にいくのも…全てが怖くて臆病になる
本当に自分がダサくて情けなくて弱くて、嫌になる
それがまた自分を落ち込ませる
自己嫌悪、負のループだ…
「今のセリくんに何か出来る事はない」
「………慰めてくれたっていいじゃん…相変わらず薄情な奴だな」
「セリくんは調子に乗りやすいタイプだからこうでも言って落ち込ませておいた方が大人しくしてくれるだろ」
「俺が動いたら悪い方にいくみたいな!?」
いや、和彦の言う通りだ…
俺が動けば、もがけば、それだけ悪い方向にいってるような気がする
やっと和彦が戻ってきてくれてそれだけでも嬉しいコトだ
「いつも、勝手に決めて勝手に動いて…心配するオレの身にもなれ」
なにそれ…そんな、いまさら素直に嬉しいコト言ってくれるなんて…誰コレ?
心配とか出来たの?人の心があったの?
「やっぱ偽者なんじゃ…」
「夜になったら泣かすぞ」
「冗談じゃん!!」
ダメだな、この冗談はお互いにとって苦い記憶なワケだから
俺も素直に受け止めれば良いだけで
でも…なんか…照れちゃって、変な感じがちょっと慣れないから?逃げたくなるって言うか
面と向かうのが恥ずかしいって…付き合い長いのに今更俺もなんだってんだ
「まぁ、もうすぐ香月が復活するならそれまで待つよ
セリくんが生意気言わずに良い子にしてたらの話だが」
釘を刺された
ちょっとずつちょっとずつ…立ち直るから、和彦と香月と…それから……
「そういえば、昨日から八部衆の誰も見かけないな」
「鬼神は一度眠ったら数日は目を覚まさない
久しぶりの地上にはしゃいでいたから暫くは起きないだろう」
子供か
「そっか、なんか静かだなって思ったら」
「心配するな、セリくんの事はオレが守ってやる」
………だから、さっきから恥ずかしいコト言うなよな
何も言えなくなる…慣れてなくて
心配してないよ、だって和彦が傍にいてくれるから
守ってくれるって信じてるから……
守って……信じてたな…レイのコト
信じていたのに…なんでこんなコトに
俺が、前世の宿に泊まろうなんてバカみたいに…
全部…全部、俺が悪い
「セリくん…」
和彦の心配する声も届かないほど、落ちてしまう
ずっと不安定だ自分が、弱くてバカで自分を追い込むコトしか出来ない
「……ちょっと冷えてきたな」
ひんやりと身体が冷たく感じて重い
「そうか?そろそろ冬の季節にもなるし、体調が悪いなら少し休むといい」
「そうするよ」
最近、あまり眠れていないのもある
前から悪夢を多く見る方だったが、ここ数日それがかなり酷かった
セリカに負担がかかる度にそれを背負い込んでいるから吐き気がするほど気持ち悪くなるコトもある
色々と精神的なものから来ているんだろうけど、その悪夢がやけにリアルで現実と変わりなく感じる
過去のコトだったり、自分が不安に思うコトだったり、様々なコトが悪夢となっている
前は誰かが隣にいてくれるとそれもマシになっていたのに、今は和彦が隣にいてもダメだ…
日々の悪夢が自分を追い詰められていくのが……もう、耐えられなかった


いつまでも、いつまで経っても、逃げられない
様々な悪いものが巡ってくる
何度も見る夢はいつも俺を苦しめる
他人の目が手が怖い
たくさんのトラウマが襲いかかる
いくつもの人は違えど、生まれ変わる度に1つだけ変わらないコトがある
それはいつも生まれ育つ環境だ
何度も何度も、吐き気しかない
俺はずっと義理の父親に同じ目に合わせられる
それが俺の決まった運命かのように
ずっと忘れていたコトもあった
でもある時、ハッと思い出すんだ
あの時…自分がやられていたコトがなんだったのか
大人になってからわかる
子供の頃は、ただただ嫌で仕方なくて気持ち悪いのに意味もわからなくて…
だから大人になってからそれがなんだったのか理解した時、言葉じゃ表せないような感情が渦巻いた
これから先も逃れられないんだってわかってる
だって過去は変えられないんだから…
死ぬまで…死んでまた生まれ変わっても…
永遠に…支配される…思い知らされる
嫌なのに、気持ち悪いのに、汚いのに、言うコトを聞いてしまう
逆らえない、怖くて…わからなくて…
それが大人になっても染み付いている
もうこんな過去の夢は嫌だ、助けて、逃げたい、助かりたい……
いつまで経っても打ち勝てない
「セリくん!しっかり!!」
和彦に肩を揺すられ、少しだけ現実に引き戻される
「っ和、彦…」
「最近、酷いな…ちゃんと眠れてもいないだろ」
なんだろう…おかしい
嫌な夢なんていつも見ているし、起きたら凄く気分は落ち込むけど
まだ過去のコトだからってなんとか耐えれてきたのに
どうしてか、最近は酷くのしかかってきて寝るコト自体が恐怖でしかない
「寝るのは怖い、でも眠い、寝たら怖い夢を見る、自分が大嫌いになる夢だ
あんなの俺じゃない、でもあれが…現実…もう嫌なのに」
人なんて自分でもわからなくなる時なんてあるだろう、自分がこんなにも弱くて不安定なんだって惨めを知るコト
いや…俺は昔から弱くて…何も出来ない男だったじゃないか…
もう…こんな自分は…
ぐっと力強く引っ張られ抱きしめられる
すると、少しだけ落ち着くから
和彦の温かさが…俺を落ち着かせてくれる
「夢の中でも、起きたらオレがいるって事を忘れるな」
和彦がいるから、なんとか生きていられる
和彦がいなくなったら…また…いなくなったら……
「……面倒くさい奴になってるな俺、和彦の重荷になってるのスゲー嫌だよ」
だから、また自分が嫌になるんだ
迷惑かけてるのが嫌なんだよ
和彦は大丈夫だって言ってくれるけど、俺が嫌だよ
こんな弱くて情けない自分
だけど、和彦がいてくれると安心しちゃって眠くて仕方ない俺はまた夢の中へと戻ってしまう
誰かに触れられるのが怖かった俺なのに、好きな人にはたくさん触れられたい
嫌なコト全部忘れるくらい…


目が覚めるとまた新しい重くのし掛かる感覚がハッキリとする
セリカに…何かあったんだ……
レイに何かされた?わからない
わからないけど、セリカの負担は俺が背負うからそれを強く請け負ってしまう
暫くすると、さっきから物音ひとつしないシーンと静まり返っているコトに気付く
おかしいな…いつもはキルラとかポップとかキルラとかポップとかがうるさいんだが
あの2人がうるさくなくても昼近くならみんな活動しているから何かしらの音はあるのに…
不気味なくらい静かな俺は部屋から出る
なんだろう…この不安感……押し潰されそうだ
耳元で嫌な幻聴すら聞こえてくる…
ダメだ、考えるな、和彦に…会わなきゃ
廊下を歩いていると、見たコトあるような石像が不自然な場所に置いてある
こんな石像こんな所にあったか…?
それにこれ誰かに似てるような……
そう思うのがいくつもあって、俺は嫌な予感に走り出す
もしかして……これは…
和彦の部屋へたどり着いてドアを開けると、そこには和彦ソックリの石像があった
「あっ…ウソ…だ、和彦……」
違う…ソックリとかじゃなくて……これは、さっきまでのもみんなみんな石化されている…?
そんな、どういうコトだ…?
この世界に石化魔法なんて…俺が知らないだけであったのか?
俺以外がみんな石になってる…?なんで、どうして………
「和彦…オマエ、こんなにアッサリ負けるような奴じゃないじゃん…」
回復魔法で治せない…
もう無理だ……和彦がいなくなって……
ずっと耳元で嫌な声の囁きがする
「1人に…しないで……和彦……」
涙が…もう泣きたくないのに
石化してしまった和彦にすがりついていると、ドアが開いて声がする
「セリ様!?これは一体どうい」
声がして振り返ると俺へと手を伸ばしたところで石化したフェイの姿が目に入る
な、フェイまで…?
一瞬、知った声がして安心したのにすぐに絶望へと変わる
やっぱり…俺以外が石化している…
吐き気がするような嫌な声が耳元で何度も何度も繰り返される
「死ね死ね死ね」
義理の父親の声が俺の耳元に張り付いて俺を追い詰めてくる
嫌だ、思い出したくない、汚い、気持ち悪い
助けて助けて助けて…
逃げられないなら……死ぬ、しかない…
もう……辛い……
この声を頭に過る顔を消し去りたい…
一時でも…楽になれるなら

気付いたら俺はこの城の1番高い場所にいた
あぁ…この高さ…前世のいつかの俺が自ら命を落とした場所に似ているな
そんなコトを思い出しながら下を見る
もう怖くなんてなかった…
ずっと死ぬのが怖くて、死ぬ勇気がなかった
生きるのが辛くて苦しくて嫌なのに
死ぬ度胸もない本当に情けねぇ男…
このまま生きてても、ずっと過去の記憶に苦しめられる
誰かに傍にいてほしかった…
じゃないと生きられない弱い俺なんだなって、本当に…
強くなりたかった…無理な話だ、これが俺なんだから
きっと何度生まれ変わっても、また同じような運命なのに
わかってても、でも一瞬でも安らぎがあるなら……死ぬのも悪くな…い……
足が浮くと地面へと引っ張られる
終わり…これで俺も…またいつもと同じように……
いつか、自分の最悪な運命にサヨナラが出来たら…いいのに
「セリくん…!!何もかも諦めるには早いだろ!?」
いつもと…違う……!?
俺を呼ぶ声に目を開けると和彦が飛び込んで来る
な、なんで和彦…?オマエは石化してて……
『和彦くんは運命に抗うコトが出来る人なんだね』
なに?この言葉?俺の頭に過る誰が言ったか思い出せない
運命に…抗う……?俺はここで死なない?
和彦は俺を掴むと強引に壁をぶち破って掴む
それできるのオマエしかいないわ……
「バカ!!後一歩遅かったら…」
和彦は怒りながらも心配したと震えながら言う
「ダメ…なんだよ……俺……ダメ」
弱音しか吐けなくなっている俺の唇を和彦は思いっきり噛んだ
血の味が染みて痛いけど、和彦が本気で怒っているコトに俺は言葉を詰まらせる
「死ぬな、オレはセリくんの運命の人じゃない
死なれたらもう二度と会えないかもしれないだろ
そんなのは…嫌だって、言ってるんだよ」
和彦は…運命の人じゃない…
そうだ、この人生で死んだらもう和彦には会えないかもしれない
そんなの…俺だって嫌だよ
和彦は俺にとって……
急にガクッとバランスが崩れるとまた地面へと引っ張られる
な、何が!?和彦の壁を掴んでいた腕がないのに気付く
「まずい…!!」
誰かが和彦の腕を切り落とした!?どこから攻撃が!?
すぐに和彦の腕を回復魔法で治したけど、落下位置も変わっていて和彦の馬鹿力で掴めるものが周りに何もない
このままだと死……?
それを俺より先に察した和彦は俺の頭を胸に抱いて守るように体勢を変える
待って、それだと和彦が頭から地面に落ちて和彦が死ぬんじゃ……
それは嫌だ!俺を生かす為に和彦が死ぬなんて嫌だ!!
そんなのおかしい!それこそ俺の為なんかじゃないよ和彦
1人残されて死なれる方がずっとずっと辛いのに……!!
地面が近付いてもうダメだと思った
和彦を助ける方法も何も思い付かず自分だけが助かるのが……死ぬより怖かった
…………。
…あれ?いつまで経っても何の衝撃もない?
いくら和彦に守られてるからってあの高さから地面に叩きつけられたら…
恐る恐る目を開けると、目の前には顔立ちの整った超美形の少年がいた
「あ、あれ……?和彦は……?」
しかも俺はその美少年に抱き上げられている
ど……どういう状況…?
その美少年をよく見ると物凄く香月に似ていて……目が離せなくなる
「待っていなさいと言ったはずですよ」
声が……
「えっ!?香月!?えっウソ!?」
姿も顔も声も幼いが、香月に間違いない
香月は俺を地面に下ろすと背を向けるから、俺は前に回ってマジマジと見る
「ウソ!?可愛い!!!中学生くらいか!?俺と背が近い!!?やば!可愛い!!
髪も少し長くなった?」
俺よりは背が高いけど、いつもより目線が近くて新鮮だ
死にかけていたのにテンションが急変する俺は自分でも頭がおかしいんだと思った
まぁ頭おかしくなかったらコイツらと付き合えてないってコトで納得している
ってか、香月の子供時代ってこんな感じなんだ~めっちゃ可愛い
魔王に子供時代はないって聞いてたけどな
復活する時にはすでにいつもの大人の姿なんだって
子供なのに、スゲードキドキする、幼くてもカッコいい
「………。」
「あれ、香月何処行くの?」
俺の横を通り過ぎて香月は去ってしまう
すると少し離れた上の方から声が聞こえた
「セリくんが香月を子供扱いするから」
声のする方に目をやると、和彦が木に引っかかっている
香月、和彦も助けてくれたんだ…雑だけど
和彦は木から下りて俺の隣へとやってくる
「肝を冷やしたよ、さすがに死ぬと思った
香月には借りができたな」
あの香月が和彦を助けたコトは意外だったけど、それは俺の為を思ってしてくれたのかもしれない
なんて考えは、良い風に取り過ぎか?
香月の復活には1ヶ月くらいかかるって聞いていた
俺を助けに来てくれた香月は中途半端に復活してしまったから、あの姿になってしまったんだろうか
あの魔王に固執していた香月が……なんか素直に嬉しい
「それにしても」
和彦が喋ってる途中で俺は感極まって和彦に抱き付いた
「どうしたセリくん?」
「ごめん…!それから、ありがとう
バカな俺を見捨てないでいてくれて…」
和彦が俺の自殺を止めてくれて、香月が助けてくれて……本当によかった
死んでたら本当に…後悔した
この人生は諦めちゃいけない
だって、和彦がいるから…
今までに会えなかった人達にたくさん出会えたから
死ぬ寸前で、まだ生きたいって思ったんだ
「セリくん」
和彦は抱き付く俺を引き離すと、軽いキスをした
「ん?今キスする流れだった?」
「やっぱり」
和彦は苦笑する
「あの顔は香月にしか見せないんだな」
「あの顔??」
どんな顔してた俺?変な顔か?
「セリくんにとって香月は特別なんだって見てたらわかるよ
オレにはきっと永遠にない事だ」
和彦は少し寂しいような顔で笑う
よくわからないけど
「和彦だって特別だぞ?だから恋人なんだし、同じくらい愛してる」
「愛してても…恋はしてないんだろうな
香月は一目でセリくんをここまで明るく出来るのに、オレは」
呟くような和彦の言葉は俺に聞こえなかった
「早く香月と仲直りして来い、せっかく香月が復活したってのにこれじゃいつまで経っても抱けないだろ」
「えっ仲直りって、香月は照れてただけだよ」
「いやあれは子供扱いされて怒ってるんじゃ」
「それに香月が子供のうちはそういうのダメだ、大人になるまで待ってやらないと
未成年に手を出すのは犯罪なんだからな」
「未成年も何もそもそもアイツ人間じゃないだろ、セリくんは真面目だな」
和彦は俺をグッと引き寄せて抱きしめる
「とにかく、セリくんが生きててよかった」
左手で腰を抱き、右手を俺の指に絡める
なんか…それだけでも……ドキドキするなぁ…
「ごめん、和彦を殺すところだった…
もう二度とこんなコトしない、俺は和彦とずっと一緒にいたいから
だから……もう諦めない」
和彦にさっき噛まれた唇を舐められる
軽く痛みが走るけど、熱くてそれが心地よくも感じた
「それに覚悟も決め」
「キスしたいから喋るな」
うん…って返事をするより先に和彦に唇を塞がれる
絡めた指に力が入る
忘れてた…和彦の温かさもぬくもりも
死んだら失ってしまうなんて、簡単にわかるコトなのに
もうあの嫌な囁きも聞こえなくなって
和彦が命懸けで助けてくれて、もう死なないって誓った
香月が目の前に現れて、心の中にずっしりと重く苦しめていたものが晴れたように感じた
心がスッキリとまではいかないが、もう一度立ち上がるには前を進むには十分だった
ここから、取り返しにいくよ
自分の大切なもの、ひとつひとつ向き合って
今度こそ幸せを掴みにいく
運命が俺の邪魔をするって言うなら抗ってみせる
それはもう不可能じゃないって、目の前の人が証明してくれたから


-続く-2020/11/23